No110.【小規模企業共済】加入できる方は?副業や奥様が加入できる場合は?/法人成りの場合の取扱い
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主が、将来退職した場合に備えて、あらかじめ積み立てておく共済制度です。将来、掛金に応じた「共済金」を受け取ることができます。
この「小規模企業共済」は、将来に備えた積立的な側面だけでなく、掛け金が全額「所得控除」できるため、高い節税効果があります。
今回は、小規模企業共済に加入できる方、「解約返戻金」の課税関係・法人成りした場合の取扱いを中心にお伝えします。
1.小規模企業共済の特徴と留意事項(メリット・デメリット)
小規模企業共済は、掛け金が「全額所得控除」でき、将来の返戻金が退職所得や公的年金等の雑所得扱いとなる場合がある点が特徴となります。
メリット | 掛金が全額所得控除可能 | ●掛金は「全額所得控除」ができ毎年の所得を圧縮可能。 ●将来の返戻金は、「退職所得」or「公的年金等の雑所得」となり、ほとんど税金がかからない。 |
低利の貸付を受けられる | 払込掛金の範囲内で、「事業資金の貸付」を受けることができる。 (利率 2022年1月現在 0.9~1.5%)。 |
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デメリット | 20年未満の解約は元本割れ | ● 掛金納付月数が「240ヶ月(20年)未満」の場合は、返戻金が掛金合計額を下回るケースがある。 ●12ヶ月未満の解約の場合、「準共済金」と「解約手当金」は返戻されない(共済金A・Bの場合は6か月未満)。 |
一時所得になる場合あり | 65歳未満の方が「任意解約」する場合は「一時所得」となる。 |
【一般の生命保険や個人年金との比較】
小規模企業共済は「支払額全額」が所得控除されます。。
一般生命保険や個人年金保険等にも「所得控除」はありますが、支払額全額が控除できるわけではありません。
最大でも所得控除12万程度ですので、いかに「小規模企業共済」が節税商品なのかがわかると思います。
2.加入条件
小規模企業共済は、個人事業主や共同経営者、中小企業の役員が加入できます。
個人事業主の「共同経営者」であれば、配偶者である奥様も加入できる点が特徴的です。
(1) 個人事業主及び法人役員
加入できる方は、個人事業主及び法人の役員となります。副業のサラリーマン等は加入できません。
(2) 奥様も共同経営者の場合は、加入可能
小規模企業共済は、個人事業主の「共同経営者」も加入できる点が特徴的です。
例えば、個人事業主の配偶者や親族が事業専従者で、「共同経営者」の要件を満たす場合は加入が可能です(個人事業主1人に対し2人まで)。
【主な共同経営者の要件】
- 事業の重要な業務執行決定に関与 or 必要な資金を負担
- 業務執行に対する報酬を受けている
例えば、奥様が青色専従者給与をもらっているだけでは要件は満たしません。しかし、資金の借入の連帯保証人になっていたり、事業の意思決定に関与している場合は、「共同経営者」として小規模企業共済に加入が可能ということになります。
【所得控除は配偶者自身】
ただし、あくまで所得控除できるのは、奥様自身となります。
例えば、旦那様が奥様分を支払っていても、旦那様の所得から控除できるわけではない点、注意が必要です。
あくまで、所得控除できるのは、ご自身で支払う奥様となります。
中小企業にとって、特に共同経営はハードルが高いものほどではありませんので、奥様を共同経営者にすることも選択肢の1つになるかと思います。
(3) 加入できない方(主な例示)
個人事業主や法人役員が対象となりますので、給与所得者でアパート経営等の副業の方などは加入できません。
【加入できない方の例示】
- 配偶者等の事業専従者(共同経営者の要件を満たしていない場合)
- 直接営利を目的としない法人の役員等(協同組合、医療法人、学校法人、NPO法人等)
- 事業兼業給与所得者(法人等と常時雇用関係にある方)、生命保険外交員等
- 各種退職金共済制度加入者(中小企業退職金共済制度、建設業退職金共済制度等)
【個人事業主の判断基準の目安】
-
●事業所得による確定申告をしている
●他の会社等と雇用関係がない(他の会社で給与所得や社会保険料負担がない等)
●社会通念上、個人事業主と認められる(固定給ではない、事業所ありなど)
⇒ 上記の基準を満たしていれば、士業、一人親方等なども加入資格があります。
(4) 業種ごとの人数要件
小規模な事業を営む個人事業主や役員が対象となりますので、業種ごとに従業員人数の制限が定められています。
対象業種 | 常時使用従業員 or組合員要件 |
個人事業主 及び共同経営者 |
経営者・ 役員 |
---|---|---|---|
建設業、製造業、運輸業、宿泊業・娯楽業・不動産業、農業 | 20人以下 | 〇 | 〇 |
卸売業・小売業、サービス業 (宿泊・娯楽業以外) |
5人以下 | 〇 | 〇 |
士業法人 (弁護士法人、税理士法人等) |
5人以下 | - | 〇 |
企業組合の役員 協同組合の役員 農事組合法人 |
20人以下 | - | 〇 |
3.解約時の返戻金は?
20年未満の解約で「元本割れ」するのは、「任意解約」の場合だけであり、すべての場合ではありません。
「共済金A」「共済金B」「準共済金」の解約返戻金の場合は、20年未満でも元本割れすることはありません。
「個人事業主」「法人の役員」を例に、代表的な「返戻事由」と「返戻金」は以下の通りです。
個人事業主の場合 | 法人の役員の場合 | 返戻金 | 返戻金の税法上の取扱い | 共済金A | ●事業の廃業(事業全部の譲渡含む) ●死亡した場合 |
法人の解散 | 少なくとも6か月以上で掛金総額以上の共済金受取が可能 | 退職所得or公的年金雑所得扱い (所令72②三) |
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共済金B | 老齢給付(65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ方) |
●老齢給付(同左) ●病気怪我 or 65歳以上で役員を退任 ●死亡 |
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準共済金 | 個人事業法人成り⇒加入資格喪失で解約(※1) | 法人の解散、病気、怪我以外の理由 or 65歳未満で役員を退任した場合 | 少なくとも12か月以上で掛金総額以上の共済金受取が可能 | |
解約手当金 (任意解約等) |
●任意解約(65歳未満の方+65歳以上で180カ月未満払込) ●機構解約(掛金を12か月以上滞納) ●個人事業を法人成り ⇒加入資格あるが解約 |
●任意解約 ●機構解約(掛金を12か月以上滞納) |
240か月(20年)未満で任意解約をした場合、掛け金合計額を下回る | 原則一時所得扱い(※2) |
(※1)平成22年12月以前に加入した個人事業主が、金銭出資により法人成りをしたときは、「共済金A」。
(※2) 65歳以上の方の任意解約の場合は「退職所得」扱い(所令72②三)。また、法人成りにより支給を受ける一時金は、解約事由に関わらず退職所得(所令72②三、小規模企業共済法第7条第4項第1号)。
(※)遺族が共済金を受け取る場合は、死亡退職金となり、相続税上みなし相続財産。
つまり、個人事業主が廃業・死亡した場合や、法人解散の場合は、よほどの短期でない限り、元本割れはしないということになります。
【任意解約の場合の解約返戻率】
12か月未満 | 13カ月以上84カ月未満 | 84カ月以上90カ月未満 | 90カ月以上240カ月未満 | 240カ月以上246 カ月未満 | 246カ月以上 |
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0% | 80% | 80.5% | 左記より6か月ごと0.75%増 | 100% | 左記より6か月ごとに0.25%増加(120%が上限) |
4.法人成りした場合は?
(1)継続可能
個人事業主が法人成りした場合でも、法人の役員は加入資格がありますので、契約を引継ぐことが可能です
個人事業主の時に支払った掛け金も通算してもらえます。
【必要書類】
●個人事業の廃業届
●法人の履歴事項全部証明書
●納付月数通算申出書兼契約申込書(同一人通算用)
(2)注意事項
法人に加入資格があるかどうかに注意が必要です。常時使用する従業員の人数が一定以下の事業かつご自身がその法人の役員であることが要件となります。
(3)加入資格がなくなった場合
法人成りによって「加入資格がなくなった場合」は、小規模企業共済は継続できません。
この場合は、解約となりますが、「準共済金」を受け取ることになります。
準共済金の場合、共済金A・Bと比べると返戻金は少なくなりますが、12か月以上納付があれば返戻率は100%以上となります(12か月未満の場合は返戻率0%)。
なお、加入資格があるのに小規模企業共済をやめる場合は「任意解約」となり、この場合は、元本割れする可能性があります。
(4)法人成りした場合の選択肢
選択枝 | 解約金の取扱い | 税法上の取扱い |
---|---|---|
法人役員として引き継ぐ(継続・年数通算) | - | - |
資格がなくなるため解約 | 準共済金 | 退職所得 |
資格はあるが、解約 | 解約手当金 | 退職所得 |
5.掛け金や受取方法
掛け金月額 | 1,000円~70,000円まで500円単位で自由に設定可能。 |
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増額減額・掛け止めは? | ●途中で増額・減額も可能(減額要件不要) ●一定要件を満たす場合、一定期間(半年~1年間)掛け金をストップ可能。所得がなくなった、災害、入院の場合など、支払が困難と認められた場合等。 ⇒ 掛止めにすると、その期間は「共済契約期間から除外」される点に注意 |
納付方法 | ●月払・半年払・年払が選択可能(口座振替) ●掛け金前納が可能。例えば、12月に1年分を支払うことで、最大84万円の所得控除可能(一定の前納減額金、割引あり)。 ⇒ ただし、1年以上前納しても「1年超分」は所得控除できない。 ●1年前納は、毎年申請手続きが必要 |
受け取り方法 | ●一括、分割(10年、15年)、一括と分割の併用という3種類から選択可能 ●ただし、分割受け取りには一定の要件あり ●1年前納は、毎年申請手続きが必要 |
6.参照URL
(法人成りにより支給を受ける小規模企業共済契約の一時金の所得区分)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/04/03.htm
(非居住者が支払を受ける小規模企業共済契約に基づく解約手当金に係る一時所得の計算について)
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/shotoku/26/02.htm