No113.【会社法】剰余金配当の会計処理・申告書の記載方法/剰余金分配の支払調書とは?
「剰余金の配当」とは、貸借対照表の純資産の「剰余金」を原資に、株主に配当を行うことです。
「剰余金」には、「利益剰余金」と「資本剰余金」の2種類があります。
配当を行う際には、会社法上、「利益準備金」や「資本準備金」への積立が強制されます。
また、配当の際には、一定の源泉徴収が必要な場合もあります。
今回は、配当可能な剰余金の種類や、配当にかかる「会計処理」「申告書の記載方法」をまとめます。
なお、剰余金の配当は、現金配当だけでなく、「現物分配」つまり「金銭以外の資産」の配当も含みます。
1.剰余金の種類と配当可能な剰余金
(1)剰余金の種類
貸借対照表の「純資産の部」のうち、資本金以外の部分は「剰余金」と呼ばれます。
剰余金は、大きく、「資本剰余金」と「利益剰余金」の2種類となります。
資本剰余金 | 資本取引から生じる剰余金です。①資本準備金②その他資本剰余金(自己株式処分損益、減資差益等)から構成されます。 |
---|---|
利益剰余金 | 損益取引から生じる剰余金です。①利益準備金②その他利益剰余金(任意積立金、繰越利益)から構成されます。 |
(2)配当可能な剰余金
剰余金のうち、資本準備金、利益準備金は配当ができません。配当が可能なのは、その他資本剰余金、その他利益剰余金となります。ただし、剰余金の配当は、会社財産の流出を伴いますので、債権者等が不測の損害を被らないよう、会社法上、剰余金の分配可能額の制限が設けられています。
自己株式の取得の際も、同様の規制があります。
2.利益準備金・資本準備金の積立
剰余金の配当を行う場合、配当額の10%を利益準備金(配当原資が資本剰余金の場合は、資本準備金)として積立する必要があります(会445条4)。「資本準備金と利益準備金合計額」が資本金の1/4に達するまで強制されます(計規22条2①)。なお、1/4を超えて積み立てる分には何の問題もありません。
3.源泉徴収
配当を行う場合は、源泉徴収が必要となります。
源泉徴収税率は、非上場株式の場合は、配当額の20.42%となります(上場株式の場合は、地方税合わせて20.315%)。
なお、令和4年の税制改正により、100%子会社や、1/3超保有会社からの配当については、令和5年10月1日以後の配当より、源泉徴収が不要となりました。この配当には「みなし配当」も含まれます。
4.剰余金配当の仕訳
剰余金を配当する場合は、原則として「株主総会決議」が必要です。配当はいつでも行うことができますが、その都度「株主総会決議」が必要となります。
剰余金の配当は、「配当決議日」に剰余金を取り崩す会計処理を行います。
現金配当を前提に、具体例を用いて、会計処理を記載します。
(1)具体例
-
●株主に、「利益剰余金」からの配当50,000を行った。
●上記配当の10%を利益準備金で積み立てるものとする(資本金の1/4には達していない)。
●未上場会社(源泉税率20.42%)とし、子会社、1/3超保有会社への配当ではないものとする。
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
配当決議日 | 繰越利益剰余金(※1) | 55,000 | 未払配当金 利益準備金(※2) |
50,000 5,000 |
配当支払日 | 未払配当金 | 50,000 | 現金 預り金(※3) |
39,790 10,210 |
(※1)その他資本剰余金からの配当の場合は、「その他資本剰余金」となります。
(※2)その他資本剰余金からの配当の場合は、「資本準備金」となります。
(※3)配当にかかる源泉所得税部分(20.42%)です。
(※4)その他資本剰余金からの配当の場合は、みなし配当の論点があります。当該論点はQ102をご参照ください。
(2)ご参考~配当を受ける側の会計処理
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
配当受領日 | 現金 仮払金(※1) |
39,790 10,210 |
受取配当金(※2) | 50,000 |
(※1)配当にかかる源泉所得税部分(20.42%)です。
(※2)その他資本剰余金の配当の場合は、受取配当金ではなく「その他有価証券」となります。詳しくは、No178をご参照ください。
5.配当の申告書記載例
上記例題を前提に、法人税確定申告書の記載例をご紹介します。
(1)税務処理
「会計処理」と「税務処理」で差異はありませんので、申告書上の税務調整(加減算)はありません。
(2)申告書の記載
税務調整はありませんが、配当が社外流出する点と、利益準備金の積立処理がありますので、以下の記載となります(配当以外の加減算なし、期首 繰越利益ゼロとします)。
(別表4 所得の金額の計算に関する明細書)
区分 | 総額 | 処分 | |||
---|---|---|---|---|---|
留保 | 社外流出 | ||||
当期利益 | 1,000,000 | 950,000 | 配当 | 50,000 | |
その他 | ・・ | ||||
加算 | ・・ | ・・ | ・・ | ・・ | ・・ |
減算 | ・・ | ・・ | ・・ | ・・ | ・・ |
所得金額 | ・・ | 1,000,000 | 950,000 | 50,000 |
当期利益の右側「社外流出欄」に「配当」というタイトルで記載します。
(別表5 利益積立金の計算に関する明細書)
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
利益準備金 | 5,000 | 5,000 | ||
・・・ | ||||
利益積立金 | ||||
繰越損益金 | 5,000 | 950,000 | 945,000 |
なお、その他資本剰余金からの配当の場合は、税務上は、「資本金等の額」からの減少分と、「利益積立金」からの減少額がありますので、「みなし配当」が発生します。こちらについては、配当する側は、No155、配当を受ける方は、No178で、別表の具体例を記載しています。こちらをご参考ください。
6.配当の支払調書
(1)配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書
剰余金の分配を行った場合、配当ごとに「配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書」を作成し、税務署へ提出します。当該支払調書は、配当金を受け取る方にも交付します。
ただし、以下の場合は税務署へ提出する必要はありません。
- 1回に支払う金額が3万円以下
- 源泉徴収の対象とならない等、一定の規定が適用されるもの
- 非上場会社の年1回の配当支払で、10万円以下のもの
(2)配当、剰余金の分配、金銭の分配 及び基金利息の支払調書合計表
配当金や剰余金などの支払確定日(または支払日)から1ヶ月以内に、「配当、剰余金の分配、金銭の分配 及び基金利息の支払調書合計表」に添付して税務署へ提出します。
7.参照URL
配当金を受け取ったとき(配当所得)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1330.htm
配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書(同合計表)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/23100023.htm
8.Youtube
<
h3>