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グループ法人税制では、寄付を行った法人は「全額損金不算入」となり、受領した法人は「全額益金不算入」となります。この結果、グループ法人間では、課税関係を生じさせることなく、財産価値の移転が行えます。

しかし、例えば、100%子会社Aが財産全部を他の100%子会社Bに寄付し、その後に、親法人が、価値が下がった子会社株式(A社株式)を売却すれば、子会社株式売却損(損金)を意図的に作ることができます。

そこで、租税回避行為を防止する観点で、親法人が有する子法人株式等につき、寄付が行われた場合に、「一定の簿価修正」が必要とされています。

今回は、グループ法人内寄付金にかかる損金不算入制度・子会社株式簿価・利益積立金の修正の制度概要をお伝えし、「100%子会社間での寄付金」を例題に、申告書の記載方法をまとめます。
 

1.グループ内寄附金の損金不算入制度とは

 

(1)一般の寄付金の取扱い

一般的な寄付金の場合、寄付を行った法人は、損金算入限度額までは「損金算入」が認められ、受領した法人は、受贈益全額が益金に算入されます。
 
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(2)グループ内寄付金の取扱い

上記にかかわらず、グループ内寄付金については、寄付を行った法人側は「全額損金不算入」となり、寄付を受領した法人は、全額が益金不算入となります。

 

(3)法人頂点の場合のみ

グループ法人税制は、個人を頂点としたグループにも適用があります。
ただし、当該「寄付金損金及び益金不算入の制度」は、「法人による完全支配関係のある」法人間の寄付についてのみ適用され、 個人(及び特殊の関係のある個人)が頂点の場合は適用されません。例えば、個人で100%支配しているグループ内の寄付金は、寄付側は(損金算入限度額を除き)損金不算入、受けた法人側では益金算入となります。同様に、法人個人間の寄付も適用されません。なぜなら、個人に認めると、贈与税や相続税が簡単に節税できることになるためです。例えば、100%父親が所有する会社の資産を、すべて息子の会社に寄附すれば、父保有の株式価値はゼロとなり、息子は贈与税を払うことなく、父の財産をもらうことになるためです。

例えば、上記A社・B社は、100%株主が法人のため、AB間の寄付は、損金・益金不算入となります。一方、C社・D社は100%株主が個人のため、CD社間の寄付金は、通常通りの処理(損金算入限度額まで損金算入)となります。なお、C社・D社も「グループ法人税制の対象」とはなりますが、「寄付金の損金・益金不算入の規定だけ適用外」という取扱いになります。

 

2. 親会社における利益積立金の調整

「寄付金の損金・益金不算入制度」は、寄付の授受があった法人だけでなく、寄付の授受があった子会社の株主法人、つまり親会社にも税務上の影響があります。寄付金損金・益金不算入により、子会社側で純資産の増減が生じるため、株主である親会社は、当該純資産の増減額につき「利益積立金」の調整が必要となります。
これは、親会社側での「租税回避」を未然に防止するためです。以下、具体例で解説します。
 

(1)具体例(利益積立金の調整がない場合)

● 親会社クレアビズ社は、100%出資の子会社A、Bを設立した。
● 親会社の出資額は、子会社A・Bとも1,000とする。
● 設立後すぐに、子会社Bは財産1,000全額(=親会社の設立出資金)を、子会社A社に寄付した。
● その後、親会社は、子会社B社株式(簿価1,000)を、外部X社に0円(時価)で売却した。

 

クレア社・A社・B社は、法人を頂点とした「完全支配関係」があるため、AB者間の寄付は損金・益金不算入となり、B社保有財産1,000は、課税されることなく全額A社に移転されることになります。

この結果、B社純資産はゼロ(=時価ゼロ)となりますので、親会社は、B社株式を外部にゼロ円で売却することも可能です。この場合、親会社では、B社株式売却損1,000(売却額0-簿価1,000)が計上されることになります。これを悪用すれば・・親会社は損金を容易に作り出す「租税回避」が行われる可能性があります。

そこで、グループ内寄付により、100%子会社側で「純資産の増減」がある場合、親法人(株主法人)の保有する「子法人株式の簿価の修正及び利益積立金の積立」の規制が設けられています。
 

(2)寄付金修正の対象

寄付修正は、子法人株式を直接保有する「株主法人」のみ対象となります。本来、意図的な売却損を防止する観点からは、グループ頂点まで「すべて」帳簿価額の修正が必要となりますが、事務負担を考慮して、修正を要するのは「直接の株主」のみに限定されています。
 
例えば孫会社が、親会社に寄附を行っても、孫会社の直接株主である「子会社」が、「孫会社株式」の簿価を修正するだけで、「親会社」が「子会社株式」の簿価を修正する必要はありません。
 

【寄付金簿価修正の対象外となる株主】

● 個人株主については、「利益積立金」の概念がないため対象外となります。
● 連結納税制度の対象となる場合は、別途「投資簿価修正」という制度があるため、寄付修正は行いません。

 

3. 子会社側の申告調整

上記2の「例題」をもとに、子会社側での申告調整につきお伝えします。
 

(1)寄付を受ける側(A社)

【仕訳】

借方 貸方
会計 現金 1,000 受取寄付金 1,000
申告調整(※) 別表4減算(社外流出)

(※)A社での「受取寄付金」は、グループ法人税制では「全額益金不算入」となります。
別表4では、「受贈益の益金不算入額処理(社外流出)」を記載します。別表5の記載はありません

 

【別表4の記載(所得の金額の計算に関する明細書)】

区分 総額 処分
留保 社外流出
当該利益
加算  ・・・  ・・・  ・・・
減算 受贈益の益金不算入額 100 100

 

(2)寄付を行う側(B社)

【会計仕訳】

借方 貸方
会計 寄付金 1,000 現金 1,000
申告調整(※) 別表4加算(社外流出)

(※)B社での「寄付金」は、グループ法人税制では「全額損金不算入」となります。
別表4では、「寄付金の損金不算入額処理(社外流出)」を記載します。別表5の記載はありません

 

【別表4の記載(所得の金額の計算に関する明細書)】

区分 総額 処分
留保 社外流出
当該利益 ・・・ ・・・
・・・  ・・・  ・・・
仮計 ・・・ ・・・
寄付金の損金不算入額(加算) 100 100

 

4.親会社(株主側)の申告調整(寄付時)

寄附の授受を行った子法人の株主は、寄附金相当額のうち「持分割合に相当する金額」につき「利益積立金額」を調整(株式簿価修正)する必要があります(法令9①七、119の3⑥)。
 

(1)仕訳

借方 貸方
会計(※1) 仕訳なし
申告調整(※2) A社株式 1,000 利益積立金 1,000
利益積立金 1,000 B社株式 1,000

(※1)会計上の仕訳はありません。

(※2)税務上は、寄付金部分につき、各子会社株式の「簿価修正」を行います。
寄付の分、各子会社の純資産が増減している点を反映し、子会社株式の「税務簿価」を修正するイメージです。別表5のみ修正し、別表4の記載はありません

 

(2)別表の記載

【別表5の記載(利益積立金の計算に関する明細書)】

区分 期首 当期中の増減 差引
利益準備金
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
A社株式(※3) 1,000 1,000
B社株式(※3) 1,000 △1,000
繰越損益金

(※3)この事例では、結果的に「利益積立金総額」は変わりませんが、A社、B社各子会社の純資産増減に対応して、各子会社株式の簿価調整(利益積立金)を行います。
この簿価修正は、別表4とは連動しないため、別表5に直接入力する必要があります。

なお、当該簿価修正は、「税効果会計」の対象となります。

 

5. 親会社(株主側)の申告調整(子会社株式売却時)

親会社のクレアビズ社が、子会社B社株式を、ゼロ円で売却した場合の申告調整は以下となります。
 

(1)会計仕訳

借方 貸方
会計 B社株式売却損 1,000 B社株式 1,000
申告調整(※) 別表4加算(留保)

(※)親会社側は、税務上、子会社寄付時点で簿価修正済のため、税務上のB社株式簿価は0となります。つまり、税務上は、簿価ゼロのB社株式を0円で売却した扱いとなり、売却損益は生じません
したがって、別表4では、会計上の「B社株式売却損」の加算調整を行い、別表5では、子会社寄付時に調整した税務簿価修正を戻す処理を行います。

 

(2)別表の記載

【別表4の記載(所得の金額の計算に関する明細書)】

区分 総額 処分
留保 社外流出
当該利益
加算 B社株式売却損否認 1,000   1,000 ・・・ 
減算 ・・・ ・・・ ・・・ ・・・

 

【別表5の記載(利益積立金の計算に関する明細書)】

区分 期首 当期中の増減 差引
利益準備金
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
A社株式 1,000 1,000
B社株式(※1) 1,000 1,000 0
繰越損益金(※2) 1,000 △1,000

(※1)B社株式売却に伴い、過去に調整していた別表5の税務上の簿価の実現処理を行います。この簿価修正は、「税効果会計」の対象となります。
(※2)この欄は、申告調整ではなく、元々計上済の「会計上の繰越利益」を表示しています(申告調整と区別するため緑色斜体で表示)。
 

6.参照URL

(完全支配関係がある法人間の寄附金)

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_04_02.htm

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