No26.【わかりやすく】種類株式とは?普通株式との違い/活用方法・メリットデメリット/属人的株式とは?
種類株式とは、2種類以上の「権利関係の異なる株式」を発行する場合の各株式のことです。
通常の株式は「普通株式」と呼ばれ、1株ごとの権利内容は同一ですが、定款に定めることで、権利内容が異なる「種類株式」を発行することができます。
例えば、「配当優先株式」など、普通株式よりも配当が優先される株式は、「種類株式」と呼ばれます。
今回は、種類株式の内容やその活用方法をお伝えするとともに、「種類株式」に似た概念である「属人的株式」をご紹介します。
目次
1.種類株式とは?
一般的な「普通株式」の場合、1株ごとの権利内容は同一・平等ですので、「保有する持株数」に応じて、議決権や配当権等を有しています。
一方で、優先配当など「株主の多様なニーズに対応」する観点で、定款で定めることにより、権利内容の異なる「種類株式」を発行することが可能です(会108)。
例えば、議決権に興味がなく、配当のみに興味のある方もおられます。こういった場合、「議決権制限株式」と「配当優先株式」を組み合わせた「種類株式」を発行すれば、投資家は資金調達に応じやすくなるとともに、会社側は、経営権の分散を排除しつつ、新たな資金調達の実現が可能となります。
2.9種類の「種類株式」
「種類株式」は、会社が、独自に内容を設計して発行できるわけではありません。
既存株主の不利益を防止するため、会社法上、種類株式は、以下の9種類に限定されています(会108)。
9種類の中から「組み合わせた」種類株式の発行も可能です。
①
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剰余金の配当 | 剰余金の配当に関して、金額や順位に優先権を持つ株式(劣後もあり)。株主の配当ニーズに応じた種類株式。 |
---|---|---|
②
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残余財産の分配 | 会社解散時の残余財産分配に関して、金額や順位に優先権を持つ株式(劣後もあり)。 |
③
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議決権制限株式 | 決議事項の一部or全部につき、議決権を持たない株式(一切行使できないものは無議決権株式)。公開会社の場合は、議決権制限株式を、発行済株式総数の2分の1を超えて発行できない(会115)。 |
④
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譲渡制限株式 | 株式譲渡の際、発行会社の承認が必要な株式。中小企業の場合は、定款で全株式に譲渡制限を付す会社が多いが、公開会社の場合は、種類株式として「一部の種類株式」にのみ譲渡制限を付けることが可能。 |
⑤
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取得請求権付株式 | 株主が、会社に対して所有株式の買い取りを請求できる株式。会社は分配可能額の範囲内で取得が強制され、請求を拒否することはできない。 |
⑥
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取得条項付株式 | 会社が、株主に対して「一定事由」が発生した場合に強制的に株式を取得することができる株式(例 株主が亡くなった場合など)。 |
⑦
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全部取得条項付株式 | 取得条項付株式のうち、その株式全部を、株主から強制的に株式を取得することができる株式。100%減資、少数株主排除、敵対的買収の防衛策として機能。 |
⑧
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拒否権付株式 | 種類株主総会において拒否権を有する株式(黄金株)。拒否権付株式を発行する場合、一定事項については種類株主総会決議(拒否権付株式を保有する株主による)が必要となり、敵対的買収の防衛策として機能。 |
⑨
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役員選任権付株式 | 拒否権付株式のうち「役員選任」に特化した種類株式。役員選任については、種類株主総会決議(役員選任付株式を保有する株主による)が必要。公開会社と委員会設置会社では、発行できない(会108Ⅰ但書)。 |
3.種類株式を発行する目的・活用場面
種類株式を活用する目的は、大きく以下の2つに分かれます。
(1)経営安定化・事業承継目的
種類 | メリット | |
---|---|---|
③ | 議決権制限株式 | オーナー経営の場合、オーナー一族の保有以外の株式を「無議決権株式」にしておくと、オーナー一族での安定経営が可能。 |
④ | 譲渡制限株式 | 株主が、勝手に見ず知らずの第三者に売却することを未然に防止でき、オーナー一族での安定経営が可能。 |
⑥ | 取得条項付株式 | 「株主が死亡した事実」を一定事由に設定していれば、死亡時に会社が買い取ることで相続人を排除できるため、好ましくない株主の参入を未然に防止が可能。 |
⑧ | 拒否権付株式 | 事業譲渡等が株主総会で議題が上がった場合でも、拒否権付株式を発行していれば、株主総会+種類株主総会(拒否権付株式保有者)の同意が必要となり、勝手に決議されることを未然に防止可能。 |
⑨ | 選任権付株式 | 役員選任に関して強い影響力を持てるため、例えば、後継者に事業承継後も、役員選任権付株式を通じて会社にへの影響を保持し、後継者のコントロールが可能。 |
●拒否権付株式は、「譲渡制限株式」や「取得条項付株式」との組み合わせで、より威力を発揮します。
⇒(例)相続等により、「拒否権付株式」が経営者にとって好ましくない者に渡ってしまう可能性がある場合、「譲渡制限」「取得条項付」を加えることで排除。
(2)資金調達目的
種類 | メリット | |
---|---|---|
①② | 配当優先株式 残余財産分配株式 |
配当・残余財産分配優先権を与えることで、配当等のみに興味のある投資家を株主として迎え入れやすくなり、資金調達が円滑に進む。 |
⑤ | 取得請求権付株式 | 取得請求権付株式は、いつでも会社に株式取得の請求が可能なため、投資家サイドの投下資本回収リスクを抑えることができ、資金調達を容易に進めることが可能。 |
●「配当優先株式」は「議決権制限株式」と合わせて発行されることが多いです。議決権には興味がなく、配当のみに興味がある株主に対し、「無議決権株式」を発行することにより、一般投資家を迎え入れやすくなるとともに、経営への関与を排除できます。
4.事業再生・IPOにおける種類株式の活用
事業再生時は、リストラ等多額の資金が必要となり、金融機関等からの資金調達が必要となります。また、IPO準備を進める場合、設備投資等のニーズより、ベンチャーキャピタルからの資金調達が必要なケースがあります。こういった場面で、資金調達を効率的に進める目的で「種類株式」が活用されます。
種類 | メリット | |
---|---|---|
② | 配当優先・残余財産分配株式 | 「配当優先」「残余財産分配」を発行しておけば、たとえ企業再生やIPOが失敗した場合でも、資金回収が担保されるため、デフォルトリスクを回避しつつ、投資家が資金を拠出しやすくなる。 |
⑤ | 取得請求権株式 | 最終的に事業再生やIPOが予定どおり進まない場合でも、取得請求権を行使して会社から資金回収を確保でき、資金拠出をしやすくなる。 |
⑥ | 取得条項付株式 |
●事業再生達成を条件とした「取得条項付株式」にしておくと、事業再生達成後に、会社が株式を買い取ることで、株式の希薄化を防ぐとともに安定経営が可能 ●公開準備段階では、「配当優先株式」で資金調達を行い、株式上場時には強制的に買い取る(or普通株式に転換)「取得条項付株式」にすると、公開後は優先株式が残ることがない(or普通株式で残る)ため、資金調達を容易に進めつつ、IPO審査もスムーズになる。 |
⑨ | 選任権付株式 |
金融機関やベンチャーキャピタルが、会社に取締役を何人か派遣して、経営への影響力を行使したいと考える場合に活用。 投資家側の取締役を選任することで、株主総会+取締役会を通じて、モニタリングや牽制を行うことが可能。 |
なお、IPOの上場審査、種類株式の内容によっては、「普通株主の権利が制約」されることがあるため、内容や影響等の審査が慎重に行われます。
種類株式保有の経緯を説明すれば問題ありませんが、一般的には、種類株式を保有したままの上場審査は、ハードルが高くなるため、ほとんどの会社は、上場承認を受ける直前に、種類株式を普通株式に転換の上、上場します。特に、①拒否権付種類株②買収防衛策としての種類株式は、重点的にチェックされます。
5.種類株式のデメリット
種類株式は、それぞれの目的に応じて活用が可能ですが、目的や、状況が変わる場合は、デメリットが生じるケースがあります。具体的には以下のケースです。
種類 | 状況・デメリット | |
---|---|---|
①② | 配当優先株式 残余財産分配株式 |
事業承継や経営安定化を目的に、「配当優先株式」を保有してもらっている株主がいる場合を考えます。 こういった状況で、例えば、会社が株式上場を目指す方向転換をしたい場合、配当優先株式を保有する株主は、上場によるキャピタルゲインよりも、安定配当を好むかもしれません。 その場合は、配当優先株式を手放してくれず、上場時の資本政策(株式構成の調整)の妨げになる場合があります。 |
④⑤ | 譲渡制限株式 取得請求権株式 |
株主からの株式買取請求権が行使された場合、資金を確保する必要があります。 |
⑧ | 拒否権付株式 |
事業承継や経営の安定化を目的に、「拒否権付株式」を、友好関係のある会社に保有してもらう場合を考えます。 会社の状況によっては、M&Aを受け入れて事業拡大などのメリットを享受したい経営方針に変更する場合もあります。こういった場合でも、もし、拒否権付株式を保有する友好関係のある会社が反対すると、M&Aは実現できないことになります。 拒否権付株式を、会社経営に好ましくない方に譲渡・相続された場合は、実務上問題になるケースが多いため、「取得条項」を付与することが多いです。 |
6.種類株式発行のための手続
登記簿で、A種類株式、B種類株式などと記載されているものは、種類株式となります。(交付時期に応じたA、B区別)。種類株式発行には、以下の手続が必要です。
- 種類株式発行会社になるための定款変更決議(株主総会特別決議 )
- 登記(発行済株式総数、発行可能株式総数、発行可能種類株式の総数及び種類株式の内容)
新たに種類株式を交付する場合だけでなく、既に発行済の普通株式の一部を「種類株式」に変更する場合も同様です。
7.属人的株式とは?
会社法上、「属人的株式」という概念があります(会109Ⅱ)。
種類株式と全く別物の制度となりますが、実質的には種類株式と同様の効果があり、事業承継対策として活用されています。
こちらは、別途「属人的株式」のブログで解説しておりますので、ご参照下さい。