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「現物分配」とは、「剰余金の配当」を金銭以外の資産で行うことをいいます(法法2十二の五の二)。
株主に対する配当を、現金でなく「株式」や「不動産」等で還元する場合などが代表例です。

実務上、現物分配を活用するケースはさまざまありますが、今回は、「子会社が解散する際の残余財産を、親会社に現物分配する場合」の会計処理・税務処理を検討します。
(現物分配・適格現物分配の内容・要件については、NO49をご参照ください。
 

1.具体例

● 「クレア社」の100%子会社である「ビズ社」は、今回解散・清算を行う。
● ビズ社の資産は「土地」のみで、清算に当たり、100%親会社に土地の現物分配を行う。
● 「クレア社」保有の「ビズ社株式」簿価は100とします。
● クレア社とビズ社は完全支配関係があり、当該現物分配は「適格要件」を満たします。

 

201704_1-1

 

(ビズ社の解散前事業年度 BS)

201704_1-2

 

2.子会社・現物分配法人側の処理(ビズ社)


(1)仕訳(会計・税務)

「適格現物分配」に該当する場合、配当による資産の移転は、「帳簿価額」よって行われ、課税関係が生じません。また、現物配当に関する「源泉徴収」も不要となります。

今回の現物分配は、「資本剰余金の額の減少を伴う現物分配」であるため、みなし配当部分を算定する必要があります(法法24条1項3号)。
税務上は、「出資の払戻部分」と「利益の配当部分」を算定します。(法令8条1項16号、9条1項11号)。

 

借方 貸方 摘要
会計 その他資本剰余金
利益積立金
600
400
土地 1,000
税務 資本金等の額(※1)
利益積立金(※2)
600
400
土地 1,000 簿価譲渡のため、譲渡損益は発生しない

(※1)資本金等の額から減算する額
払戻直前資本金等の額600 × 現物分配土地の交付直前帳簿価額 1,000/前事業年度の簿価純資産額 1,000 = 600

(※2)利益積立金から減算する額(みなし配当部分)
 1,000(現物分配土地の交付直前帳簿価額) - 600(減少資本金等の額) = 400

 

(2)申告調整仕訳

「会計」と「税務」で仕訳に相違はありませんので、申告調整仕訳はありません。
 

(3)別表の記載

税務修正仕訳がありませんので、別表4、5ともに税務申告上の調整はありません。

 

3.親会社・被現物分配法人側の処理(クレア社)

(1)仕訳(会計・税務)

借方 貸方
会計 土地 1,000 子会社株式
子会社清算利益(※1)
100
900
税務 土地 1,000 子会社株式
資本金等の額(※2)
受取配当金(※3)
100
500
400

(※1)子会社清算利益
会計上は、「土地」簿価と「子会社株式」簿価の差額が「子会社清算利益」となります。

(※2)資本金等の額
税務上は、グループ法人税制適用により、「子会社株式」は帳簿価額による譲渡があったものとみなされるため、「譲渡損益」は計上せず、資本金等の額の加減算処理となります。親会社では、本来、ビズ社の「資本金等の額の減少額」が譲渡対価となりますが、完全支配関係があるため、譲渡対価=譲渡原価の額とされ、譲渡損益は計上されません(法61の2⑯、法令8①19,20)。

(※3)受取配当金(=みなし配当)
現物分配法人(ビズ社)で算定した「利益積立金」部分が「受取配当金」となります。
なお、「適格現物分配」により資産の移転を受けたことにより生ずる収益の額は、益金の額に算入しません(法62条の5第4項)。
 

(2)申告調整仕訳

「会計処理」と「税務処理」が異なるため、税務申告上の調整が必要となります。
会計上は「清算損益」が計上されているのに対し、税務上は、「みなし配当」と「資本金等の額の増減」の取扱いとなるため、申告調整を行います。

借方 貸方
申告調整 子会社清算利益 900 資本金等の額
受取配当金
500
400

 

(3)別表の記載

①別表4の記載(所得の金額の計算に関する明細書)

区分 総額 処分
保留 社外流出
当該利益
加算 ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
受取配当金計上漏れ(※2) 400 400
減算 適格現物分配に係る益金不算入額(※3) 400 400
子会社清算利益減算(※1) 900 900

(※1)会計上の「子会社清算利益」を減算 (申告調整仕訳 借方)
(※2)みなし配当部分を加算(留保) (申告調整仕訳 貸方)
(※3)(※2)の結果、認識された受取配当金は、「適格現物分配に係る益金不算入額」に該当するため、減算(社外流出)(法法62条の5第4項)

 

②別表5の記載

【利益積立金の計算に関する明細書】

区分 期首 当期中の増減 差引
利益準備金
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
みなし配当(※4) 400 400
子会社清算利益(永久差異)(※5) 900 △900
繰越利益金(※6) 900

(※4)別表4の(※2)に対応。
(※5)別表4の(※1)に対応。
なお、「子会社清算利益」は永久差異となるため、税効果の対象となりません。
(※6)この欄は、申告調整ではなく、元々計上済の「会計上の繰越利益」を表示しています(申告調整と区別するため緑色斜体で表示)。上記(※5)に対応

 

【資本金等の額の明細書】

区分 期首 当期中の増減 差引
資本金
・・・
子会社清算利益(※6) 500 500

(※6) 税務上、「資本金等の額」が増加します。 (申告調整仕訳 貸方)
 

4.参照URL

(残余財産の分配が金銭と金銭以外の資産の両方で行われる場合のみなし配当の計算)

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/101006/pdf/13.pdf