No180.【現物出資】消費税は課税取引?/個人と法人の会計処理具体例/適格現物出資・非適格現物出資の違いは?
金銭以外の「財産」での出資は、「現物出資」と呼ばれます(会社法28、199)。
現物出資は、個人が実施する場合と、法人が実施する場合で、取引価額が異なります。
また、消費税上は、「資産の譲渡等に類する行為」として課税されるケースがあります。
今回は、現物出資にかかる所得税・法人税、消費税上の取扱いにつき、具体例を用いて解説します。
目次
1. 所得税上の取扱い(個人)
個人が現物出資を行う場合、常に時価での譲渡となります
2. 法人税上の取扱い(法人)
法人が現物出資を行う場合は、「税制適格現物出資」か「税制非適格現物出資」かで、譲渡価格の取扱いが分かれます(法62の4①②、法22)。
(法62の4①②、法22)。
(1) 適格現物出資・非適格現物出資による違い
法人の場合、現物出資を行った法人は、原則として時価で譲渡したものとされ、時価簿価差額につき「譲渡損益」が発生します(受入側は時価で受入)。
(法62条の4)
ただし、「適格現物出資」に該当する場合は、簿価で譲渡したものと取り扱われます。
適格現物出資の場合、被現物出資法人(現物出資を受け入れた方)は、現物出資直前の帳簿価額で受け入れます(取得に要した費用は加算)。
適格or非適格 | 現物出資を行った側 | 現物出資を受け入れた側 |
---|---|---|
適格 | 移転資産・負債は簿価による譲渡 →課税の繰延 |
帳簿価額による受け入れ |
非適格 | 移転資産・負債は時価による譲渡 →譲渡損益が発生(※) |
時価による受け入れ |
(※)ただし、100%グループ内での現物出資の場合は、グループ法人税制の適用により、結果的に「課税が繰り延べ」られます。
(2) 適格現物出資の要件
要件は、「適格会社分割」の場合と全く同じです(法2①十二の十四)。
詳しくは会社分割をご参照ください。
持分割合 | 株式 交付 |
持分 継続 |
資産負債引継 | 従業員 引継 |
事業 継続 |
事業関連性 | 規模or 役員 |
株式継続保有 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
企業グループ内分割 | (100%) | ○ | 100% | × | × | × | × | × | × |
(50%超 100%未満) |
○ | 50%超 100%未満 |
○ | ○ | ○ | × | × | × | |
共同事業のための分割 | (50%以下) | ○ | - | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
3. 消費税上の取扱い(個人・法人)
「現物出資」は、合併や会社分割による資産の移転と同様、「組織法上の行為」と位置付けられます。
一般的に、こういった「組織法上の行為」は、「資産の譲渡」ではありませんので、消費税は課税されません。
しかしながら、「現物出資」は、「資産の譲渡等に類する行為」として消費税が課税されるケースがあります。
(1) 消費税課税取引となる現物出資取引
消費税上は、適格・非適格に関わらず、「資産の譲渡等に類する行為」として、現物出資対象の財産により、「課税取引」の判定を行います(消費税法2条1項8号)。事後設立(金銭出資で設立後、当該金銭を対価として資産を譲渡)の場合、と整合性をはかった取扱いと考えられています。
例えば、現物出資財産が「棚卸資産等」の場合は、「課税取引」に該当しますが、「土地」の場合は、「非課税取引」に該当します。
現物出資対象資産 | 消費税の取り扱い | 留意事項 |
---|---|---|
棚卸資産・建物など | 課税取引 | 「税抜処理」をしている場合は、法人税と消費税の取扱いが異なるため、仕訳に留意する。 |
土地など | 非課税取引 | 現物出資を行う側は、「課税売上割合」に影響する。 |
有価証券・金銭債権 | 譲渡対価の5%が非課税取引となる | 現物出資を行う側は、課税売上割合に影響する |
(2) 消費税課税標準
現物出資にかかる消費税の課税標準は、適格・非適格に関わらず、簿価ではなく、時価となります(消施令45条第2項③)。
適格現物出資の場合、会計処理は「簿価譲渡」となりますので、消費税の取扱いにつき、十分留意が必要です。
【ご参考~課税資産と非課税資産の譲渡対価が合理的に区分されていない場合】
現物出資の対象資産につき、課税資産と非課税資産の譲渡対価の額が「合理的に区分されていない」ケースもあります。
こういった場合、消費税の課税標準は、以下の割合で算定します(消28①、消令45②三③)。
以下、個人と法人それぞれの場合の現物出資の会計処理を解説します。
4. 個人→法人への現物出資の具体例
- 個人が土地建物の現物出資を行い、新会社を設立した。
- 土地の簿価は1,000(時価2,000)、建物簿価は3,000(時価5,000)とし、各々の時価は明確に区別されているものとする。
- 個人・法人とも、消費税免税事業者とする。
- 受入側の資本の部は、全額「資本金等の額」とする。
【仕訳】
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
個人側 (現物出資を行う側) |
子会社株式(時価) | 7,000 | 土地(簿価) 建物(簿価) 固定資産売却益 |
1,000 3,000 3,000 |
法人側 (現物出資を受ける側) |
土地(時価) 建物(時価) |
2,000 5,000 |
資本金等の額 | 7,000 |
- 個人の場合は、時価で譲渡したものとされるため、個人側に譲渡損益が発生
- 今回の事例では、個人・法人とも免税事業者のため、消費税への影響はありません。
5. 法人→法人への現物出資の具体例
- 法人が土地建物の現物出資を行い、新会社を設立した。
- 土地の簿価は1,000(時価2,000)、建物簿価は3,000(時価5,000)とし、各々の時価は明確に区別されているものとする。
- 両法人とも消費税課税事業者とする。
- 受入側の資本の部は、全額「資本金等の額」とし、「資産調整勘定」は発生しないものとする。
(1) 適格現物出資の場合
【仕訳】
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
現物出資を行う法人側 (※1) |
子会社株式(簿価) 雑損失(消費税部分) (※3) |
4,000 500 |
土地(簿価・非課税) 建物(簿価・課税) 仮受消費税(※2) |
1,000 3,000 500 |
現物出資を受ける法人側 | 土地(簿価) 建物(簿価) 仮払消費税(※2) |
1,000 3,000 500 |
資本金等の額 雑収入(※4) |
4,000 500 |
(※1) | 適格現物出資のため、現物出資を行う法人側に、譲渡損益は生じません(簿価譲渡)。 |
---|---|
(※2) | 消費税は、建物のみ発生(土地は非課税)。 ⇒この場合の消費税課税標準は、適格現物出資に該当する場合でも、簿価ではなく時価となります。(消施令45条第2項③) 建物時価5,000 × 10 % = 500 |
(※3) | 現物出資を行った側の法人の「子会社株式取得価額」は、譲渡資産の簿価4,000となります。 しかし、消費税課税標準が時価となる結果、仮受消費税500だけ浮いてきます。これは、移転資産負債が簿価純資産であることに起因して顕在化した適格現物出資固有のものであり、税務上の処理方法としては、雑損失で処理して問題ありません(国税速報 第6587号 令和元年12月9日)。 |
(※4) | 現物出資を受ける側の「資本金等の額」は、移転資産の簿価純資産と規定されているため、4,000となり、上記(※3)と同様の考え方で、「雑収入」で処理することになります。 |
(2) 非適格現物出資の場合
【仕訳】
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
現物出資を行う法人側 (※1) |
子会社株式(時価) (※3) |
7,000 | 土地(簿価・非課税) 建物(簿価・課税) 固定資産売却益 仮受消費税(※2) |
1,000 3,000 2,500 500 |
現物出資を受ける法人側 | 土地 建物 仮払消費税(※2) |
2,000 4,500 500 |
資本金等の額(※4) | 7,000 |
(※1) | 非適格現物出資のため、現物出資を行う法人側に、譲渡損益が発生します(時価譲渡)。 |
---|---|
(※2) | 消費税は、建物のみ発生(土地は非課税)。 ⇒この場合の消費税課税標準は、適格現物出資と同様、簿価ではなく時価となります。(消施令45条第2項③) 建物時価5,000 × 10% = 500 |
(※3) | 現物出資を行った側の「子会社株式取得価額」は、譲渡資産の時価7,000となります。 また、時価で移転する場合は、すべて移転損益に含めて処理を行いますので、消費税部分は、雑損失ではなく「固定資産売却益」をマイナスする形で処理を行います(国税速報 第6587号 令和元年12月9日)。 |
(※4) | 現物出資を受ける側の「資本金等の額」は、移転資産の時価(ないし交付株式の現物出資時の時価)と規定されているため、7,000となります。 また、上記(※3)と同様の考え方で、消費税部分は、雑収入ではなく、引継建物価額をマイナスする形で処理を行います。 |
6. ご参考~設立現物出資の「完全支配関係」
「法人設立」による現物出資の場合、現物出資前は、そもそも「完全支配関係がない」ことから、「完全支配関係の判定」につき、別途規定されています(法施令4の3⑬)。
設立の場合の「完全支配関係」の判定は、以下のとおりです。
単独新設現物出資 (1の法人のみが現物出資法人となるもの) |
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複数新設現物出資 |
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7. 参照URL
(現物出資の場合の課税標準)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/14/02.htm
(複数新設現物出資)法人税施行令4の3⑬
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=340CO0000000097
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