No212.個人版事業承継税制
2019年の税制改正により、「個人事業主向け」の事業承継税制が策定されました。
スムーズな事業承継を促進する観点から、法人向け納税猶予制度の「大幅要件緩和」とともに、「個人版事業承継税制」が新たに整備されたことになります。
(簡単なイメージ)
「個人版事業承継税制」は、個人事業主の事業財産にかかる「贈与税・相続税の納税が100%猶予」されるものです。
一定の場合には猶予 ⇒ 免除、猶予 ⇒ 納税になる場合もあります。
ただし、不動産貸付業は、対象から除外されています。
後継者が亡くなるまで対象資産を保有・事業継続 | 納税猶予 ⇒ 免除に変わる |
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対象事業を廃止 | 猶予税額の全額を納付 |
目次
1. 適用期間
2019年1月1日から2028年12月31日までの「相続や贈与」が対象。
2. 必要な手続き
- 後継者が「個人事業承継計画」を策定、認定経営革新等支援機関が所見を記載
- 上記を都道府県に「確認申請」(2019年4月1日~2024年3月31日まで)
- 贈与年の10月15日~翌年1月15日までに都道府県に「認定申請」
- 贈与年の翌年の3月15日までに、税務署に贈与税申告書を提出(認定書添付)
- 税務署に、3年毎に「継続届出書」を提出
3. 人の要件(主なもの)
(1) 贈与者・被相続人( = 先代経営者等)
先代経営者の場合 |
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先代経営者以外の場合 |
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(2) 受贈者・相続人( = 後継者)
- 18歳以上(2022年3月31日までの贈与は20歳以上)(贈与の場合のみ)
- 円滑化法の認定を受けていること
- 贈与日まで3年以上、特定事業用資産に係る事業に従事
- 贈与税申告期限に開業届出書を提出&青色申告承認
- 資産管理事業、及び性風俗関連特殊営業に該当しないこと
4. その他の主な要件
猶予された税額に見合う「担保の提供」が必要です。
法人の場合は、非上場株式が担保となる「みなし規定」がありますが、個人の場合は、別途担保財産を準備しなければいけませんので、実質的なハードルは高いです。
5. 対象となる資産
対象資産は限定されています。
以下の資産が対象になります。
- 土地・建物(土地は400㎡、建物は800㎡まで)
- 一定の減価償却資産(機械、器具備品、車両運搬具・無形固定資産等)
(注意)
- 先代事業者の事業の用に供されていたもので、青色申告書に記載されていたものが対象となります。(家事利用分は×)
- 「特定事業用資産」は、すべて贈与する必要があります。
- 棚卸資産や売掛金などは対象になりません。また、土地建物で、面積超過した場合は、超過分のみが納税猶予から外れます。
6. 納税猶予の猶予税額の免除(主な理由)
- 先代事業者等(贈与者)や後継者(受贈者)の死亡(※)
- 申告期限翌日から5年後に、資産の全てについて「免除対象贈与」を行った場合
- 事業継続が困難な、やむを得ない事情(一定の障害事由等)がある場合
- 破産手続開始の決定があった場合
- 事業継続が困難な一定の事由が生じた場合、資産の全ての譲渡・事業を廃止したとき
(※)先代事業者等死亡後は、相続税の納税猶予や免除にスイッチ可能です。
7. 納税猶予の打ち切り(主なもの)
(1) 原則
全額納付が必要な場合 |
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一部納付が必要な場合 |
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(2) 例外
事業用資産が事業の用に供されなくなった場合でも、次の場合には、納税猶予は継続されます。
- 事業用資産を陳腐化等の事由で廃棄し、税務署に書類等を提出
- 事業用資産を譲渡し、譲渡日1年内に新たな事業用資産を取得する見込みである場合(税務署長の承認必要)
⇒ 譲渡対価額を、すべて新規の取得資産の購入に充てないと× - 申告期限翌日から5年経過日後の会社設立に伴う現物出資で、全ての事業用資産を移転したとき(税務署長の承認必要)
⇒ 法人成りで、特定事業用資産すべてを現物出資した場合のこと
8. 小規模宅地等の特例との選択適用
「相続税の納税猶予」は、特定事業用宅地等の特例と併用ができません。
小規模宅地等の特例は、相続財産の総額を圧縮するため、他の相続人の税額を軽減する効果がありますが、納税猶予の場合は、後継者の税額に限定されます。
また、「特定同族会社事業用宅地等」と「貸付事業用宅地等」の特例は併用できますが、個人版事業承継税制側で、面積制限を受けます。(400㎡からその分控除)
9. 法人版との違い(税務通信 No3555から抜粋 + 追記)
法人版 | 個人版 | |
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対象資産 | 全株式 | 特定事業用資産 |
承継パターン | 複数株主から最大3人の後継者 | 原則、先代1人から後継者1人 (一定の場合複数から複数も可) |
贈与要件 | 一定数以上の株式等を贈与 | 事業に係る特定事業用資産すべてを贈与 |
雇用確保要件 | 弾力化 | 雇用要件なし |
経営環境変化の免除 | あり | あり、重度障害の場合も免除 |
経営承継期間 | あり | なし |
年次報告書提出 | 毎年 | 3年に1回(継続届出書・税務署のみ) |
担保提供 | あり(みなし充足あり) | あり(みなし充足なし) |
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