No101.【剰余金の分配可能額】配当可能限度額の計算方法をわかりやすく解説/自己株式や純資産300万円未満の取扱い
会社は、利益追求を目的とした組織ですが、最終的には利益を株主に還元することを目的としています。
したがって、原則として獲得した剰余金(利益)は、株主総会の決議により、いつでも株主に分配(配当)をすることが可能です(会453条)。
赤字の会社でも、剰余金の分配(配当)は可能です。
しかし、剰余金の分配を無制限に認めると、会社に財産が残らなくなってしまい、債権者等が不測の損害を被る可能性があります。
そうすると、金融機関等は会社にお金を貸すことを躊躇することになります。
そこで、会社法上、配当等の財源規制として「剰余金の分配可能額」という限度が設けられています(会461条)。
今回は、この「分配可能額」の算定方法につき解説します。
1.分配可能額を算定しないといけないケース
会社法上の規定より、「剰余金の分配可能額」を算定しないといけない場合は、以下3つのケースとなります。
②会社が自己株式を取得する場合
③有償減資をする場合
会社法では、①株主に対する金銭等の分配②「自己株式の取得」の2つを合わせて「剰余金の配当等」と規定し、財源規制がかけられています(会社法461条)。
また、③「有償減資」についても、「欠損填補のための減資(=無償減資)」+「剰余金の配当」と整理されており、「分配可能額」の規制がかかると解釈されています。
2.中小企業の場合の分配可能額
「分配可能額」の算定は、厳密には、非常にややこしい規定となっています。
ただし・・複雑な取引がない中小企業では、ほとんどの場合、下記の計算式で算定できます。
分配可能額 = その他資本剰余金の額 + その他利益剰余金の額 ― 自己株式帳簿価額
中小企業では「その他資本剰余金」や、「自己株式」もない場合が多いと思いますので、
誤解を恐れず簡単に言うと・・「その他利益剰余金」が「剰余金の分配可能額」となります。
その他利益剰余金とは、任意積立金+繰越利益剰余金のことです。
3.分配可能額以外の制限
上記の「分配可能額」が、たとえプラスの場合でも、下記の制限があります。
① | 純資産額が300万円未満の場合は「剰余金の配当」ができない | 配当を行うことで、純資産が300万円未満となるような配当もできません(会社法458条) |
---|---|---|
② | 配当をした場合、配当額の1/10「利益準備金等」の積立が必要(資本金の1/4に達するまで) | 利益準備金等の積立を考慮すると、「分配可能限度額」は、「分配可能額」×10/11となります(利益準備金の積立が必要な期間のみ)。 |
③ | 分配可能額には、決算日から分配時点までの「期間損益」は含まれない | 臨時計算書類を作成した場合は除きます(会社法461条第2項2号)。 |
4.分配可能利益算定の具体例
●分配可能額は?
●決算日以降、分配時まで、資本取引、配当等特別な取引はないものとする。
(分配可能額の計算)
その他の資本剰余金1,000 + その他利益剰余金2,500 (※)- 自己株式500 = 3,000
(※)その他利益剰余金 = 任意積立金500 + 当期未処分利益2,000
5.分配可能額の算定ステップ
「分配可能額」の算定ステップは、以下の3つとなります。
以下、それぞれ解説します。
(1)決算日における剰余金の額の算定
決算日における剰余金の額は、会社法に詳細に記載されています(会446条、計規149条)が・・・
非常にややこしいので、「結論」だけ記載します。
決算日における剰余金の額= その他資本剰余金の額 + その他利益剰余金の額
(2)分配時点の剰余金の額の算定
分配時点の剰余金の額は、会社法に詳細に記載されています(会社法446条2~7号)が・・・
非常にややこしいので、「結論」だけ記載します。
分配時点における剰余金の額=上記(1) + 下記調整額
+ | 決算日以降の自己株式処分損益、減資差益・準備金減少差益 |
---|---|
△ | 決算日以降の自己株式消却額 |
△ | 決算日以降の剰余金の配当額 |
△ | 法務省令で定める額(会社計算規則150) (※) |
(※)代表的なもの
- 決算日以降に実施した「剰余金」から「資本金の額又は準備金」への振替額
- 決算日以降に実施した「剰余金の配当」にかかる準備金積立額
- 一定の組織再編による剰余金等の変動
(3)分配可能額の算定
分配可能額は、会社法に詳細に記載されています(会社法461条第2項)が・・・
非常にややこしいので「結論」だけ記載します。
分配可能額=上記(2)+下記調整額
△ | 分配時点の自己株式の帳簿価額 |
---|---|
△ | 決算日後に自己株式を処分した場合の処分対価 |
△ | その他法務省令で定める額(会社計算規則158) (※) |
(※)代表的なもの
その他有価証券評価差損・土地再評価差損 | これらは、損益に計上されておらず、剰余金を構成するものではありませんが、その他有価証券評価損は、会社財産の減少を示すものとして分配可能額から控除します(評価差益は何もしない) |
---|---|
のれん等調整額 | 資産の部に「のれん」が計上されている場合には、①のれん等調整額と②資本等金額 (※)を比較して分配可能額から控除します。 |
(※)
①のれん等調整額=のれん(資産の部)×1/2+繰延資産
②資本等金額=資本金+資本準備金+利益準備金
①<②の場合は控除額ゼロ、①>②の場合は控除額あり。
なお、「自己株式処分差損益」は、(2)の計算時に加算しましたが、(3)で「自己株式処分価額」を差し引くため、結果的に自己株式処分差損益は反映されない結論となります。
6.YouTube
<
h3>
【
】