No145.移転価格税制って何?
「移転価格による追徴金00億!」っていうような記事が、たま~に日経新聞に掲載されたりしますよね?
新聞に出るのは・・だいぶ後になってからなんですが(笑)
今回は、国際税務でも最重要論点、「移転価格税制」の概要をまとめます。
移転価格の問題は、大企業だけの話ではありませんよ!ベンチャー企業でも、海外に進出する際はちゃんとしておかないと・・えらい目にあいますので!
1. 移転価額税制って何?
法人が、国外取引を行う際の価格について規制する制度です。
前回のタックスヘイブン対策税制と趣旨は同じですね。
日本から、税率が安い海外子会社に販売する価額を低く抑えると、利益のほとんどは海外で計上され、「全世界ベースでの税負担」が低くなります。
関係会社間の場合は、取引価格を自由に決めることもできてしまいます。
そこで、親子会社関係間などと取引をする場合、独立企業間価格(支配関係のない独立の第三者間で行われる取引価格)で行われたものとみなすことにより、所得の移転を制限する制度、それが移転価額税制です。
(例)
- 国内親会社仕入100 ⇒ 海外子会社に売却
(事例1 売却額100・事例2 売却額300) - 海外子会社 ⇒ エンドユーザーに500で売却
- 為替は無視
日本親会社が100で仕入れ、海外子会社を通じて500で販売する場合、グループ全体での利益は400となります。
しかし、親子間の取引価格が100か300かの違いにより、親子それぞれの利益が変わってきます。
つまり、親子間の取引価格を調整することにより、意図的な租税回避が可能ですよね。
これに歯止めをかける制度が「移転価格税制」なんです。
2. 適用対象(納税義務者)
(1) 納税義務者
日本で法人税の納税義務を負う法人です。個人は含まれませんが、法人規模の要件はありませんので「ベンチャー企業」でも対象となります。
また、「租税回避の意図」は関係ありません。
つまり、大半の企業は租税回避の意図はない・・にもかかわらず「多額の課税」があるので怖い制度なんです。
(2) 適用対象取引
以下に該当する「国外関連取引」です
- 法人と国外関連者間で行われる棚卸資産の購入販売・役務提供、技術提供等にかかる取引 かつ
- 対価の額が独立企業間価格に満たないor超える取引
3. 独立企業間価格って?
独立企業間価格とは、第三者間において「通常取引されるだろう価格」です。
算定方法は、独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法(OECDガイドライン)などがあります。
しかし、実際・・この独立企業間価格の算定はかなり難しいですので、十分に検討したうえで「取引価格」を設定しなければなりません。
4. 課税額は?
「独立企業間価格」と「実際取引価格」との差額分が課税されます。
例えば、先ほどの事例1で、子会社への実際販売価額が100円、独立企業間価格が300円と算定された場合は、以下となります。
実際価額 | 独立企業間価格 | 差額 | 摘要 | |
---|---|---|---|---|
日本 | 100 | 300 | 200 | 日本で課税 |
海外 | 100 | 300 | △200 | 海外で還付 |
日本では、差額200につき追加課税が行われます。逆に、既に税金納付済の、海外子会社所在国では、税金を還付してもらうことが可能です。
しかし、実際は、自動的に還付が受けられるわけではありません。
現地当局が還付を認めてくれなければ、日本と海外で二重課税という問題が生じます。
5. 文書化
平成28年度税制改正により、「移転価格文書化資料」の作成が義務付けられました。
この資料は、「税務調査で追徴を受けない根拠」として重要な意味を持つだけでなく、文書作成プロセスの中で、自社にとって「適正な所得配分を検討」できるという意味でも、非常に有用な制度だと思います。
このあたりは、また改めて別のところでまとめます。
<< 前の記事「過少資本税制とは?」次の記事「タックスヘイブン対策税制って何?」 >>