CA096
 

退職金財源を確保する選択肢として、最近は企業型DC(企業型確定拠出年金)に加入する企業
が多くなっています。
企業型DCとは、「企業側」が毎月積立を行い、「従業員側」が自ら年金資産の運用を行う制度です。
従業員1人の場合や、個人事業主でも加入可能です。
会社側は、将来の退職金財源確保が可能となり、従業員にとっては、将来の年金資産の形成が可能な点で有用な制度です。

 
今回は、企業型DCの特徴や会社側の会計処理、従業員側の所得区分、従業員側が上乗せできるマッチング拠出等をを中心にお伝えします。
 

1. 企業型DCの特徴

 

(1) 企業型DCの特徴

同じ「退職金財源確保」の手段としては、「中退共」「養老保険」もありますが、これらの制度と比較した場合、企業型DCの特徴は以下の通りです。

●掛け金を支払う企業側は、全額損金算入OK。ただし、加入時・運用時に、手数料等のコストが発生(中退共は手数料なし)。
加入対象につき一定の条件を設定でき、退職金の制度を柔軟に設計できる(中退共は制限あり)。例えば、勤続10年以上などの限定や、役員等の加入も可能(扶養している配偶者等は加入不可)。
●会社が拠出した資金は、原則として、会社に返還されることはない(養老保険は返金可能)。
●企業型DCの運用収益は非課税。ただし、運用結果により給付額が変動するため、元本割れの可能性あり。

 

(2) 加入できる企業

法人のほか、個人事業主も加入可能ですが、「社会保険に加入」が要件となります。
ただし、基本的には、30名以上から導入が可能な運用会社が多く、1名から導入できる運用会社の場合、手数料が高くなります。
 

(3) 加入対象となる従業員を定めることが可能

加入対象者は、原則として、「70歳未満の厚生年金被保険者」となります(2022年5月~)。
加入できる従業員を規約等で定めることが可能ですが、事業主が自由に加入対象者を決めることはできず、法令で、一定のルールが設けられています。

以下の場合、加入対象者を制限することが認められています。
 

【加入対象者を制限できる場合】

一定の職種の者に限定 職種とは、研究職、営業職、事務職など。就業規則などで、労働条件が他の職の従業員と「別に規定」されている必要あり。
一定の勤続期間の方に限定(例 勤続3年以上等)(※) 一定年数の勤続期間を加入資格者とすることができる。
年齢による制限 企業型DCは中長期の資産運用が前提のため、50歳以上の「一定年齢以上」の方を、「加入対象外」にすることが可能。
希望者のみに限定(※) 加入・非加入を従業員の希望に委ねることが可能(企業型DCは、原則60歳になるまで受取不可のため)。

(※)加入対象外となった方に対し、代替給付の措置(前払退職金制度等)が必要なケースもあります。

 

2. 掛け金上限・会計処理

 

(1) 掛け金上限

企業型DCのみ 月額55,000円(※)
企業年金(DB or 厚生年金基金)を併用 月額27,500円

(※)中退共との併用の場合も、上限額は55000円となります。ただし、iDeCoと併用する場合は、上限額は35,000円となります。
 

(2) 会計処理

掛金は、支払時に「福利厚生費」として全額損金可能です。消費税区分は「不課税取引」です。
掛け金支払時に運営管理機関への「事務手数料」が発生しますが、「支払手数料」で処理を行います。支払手数料の消費税区分は消費税は「課税取引」となります。
 

3. マッチング拠出とは?

(1) 掛け金の上乗せが可能

企業型DCを導入している企業では、「マッチング拠出」という制度が利用できます。
会社が拠出する掛金に加えて、従業員本人が上乗せ拠出を行い、一体運用できる制度です。
 
例えば、企業が負担する拠出金額が拠出限度額に満たない場合、「マッチング拠出」を活用して、限度余裕部分につき従業員本人が上乗せ拠出すれば、従業員の将来の年金資産をより多く確保できます。

ただし、マッチング拠出の利用は、強制されるものではありません。各従業員側が「任意」で、制度の適用が可能です。
 

(2) 要件

●会社規約で「マッチング拠出」を導入していること
 

(3) 掛け金上限

会社拠出掛金と同額まで
会社 + 従業員合計で拠出限度額まで(55,000円or27,500円)

例えば、企業型DCのみのケースで、会社拠出掛け金が30,000円の場合、従業員は差額25,000円の上乗せ拠出が可能です。

一方、会社拠出額が少額の場合は、加入者による上乗せ掛金も、結果的に少額に抑えられてしまいます。例えば、会社拠出額が5,000円の場合は、従業員の上乗せ可能額も5,000円となります。
 

(4) メリット(従業員)

マッチング拠出は、従業員側にメリットがあります。マッチング拠出した金額は、将来の年金資産の上乗せ部分になるとともに、毎年の支払額は、全額所得控除の対象(小規模企業共済等掛金控除)となり、所得税等の軽減が図れます。
一方、会社側は支払いが生じないため、特に節税や社会保険上のメリットは生じません。
 

4. 受取側の所得区分・受取時期

 

(1) 運用収益は非課税・ただし元本割れの恐れあり

企業型DCの運用収益には課税されません。ただし、受取額は運用実績によって変動するため、元本割れの可能性もあります。
 

(2) 受取時期

受取時期は、原則として60歳以降となります。加入期間によって受取時期が最高65歳まで受取開始時期が繰り下がります(※)
受給開始年齢の上限は75歳となります(2022年4月~改正)。

(※)60歳時点で「通算加入期間が10年未満」の場合、受給開始年齢が段階的に引き上げられます(65歳まで)

なお、中途解約はできませんが、転職等の場合、転職先の企業型DCや個人型DCで継続運用が可能です。
 

(3) 受取側の所得区分

一時金受取 退職所得
年金形式で受取 雑所得(公的年金)

 

5. 企業型DCと個人型DC(iDeCo)の併用は?

個人が拠出する確定拠出年金は、個人型DC(=iDeCo)と呼ばれます。

企業型DCと個人型DCは、2022年10月より、会社の規約の定めの有無に関係なく、併用が可能になりました
(企業型DCに加入している会社員の場合、iDeCoの上限額は、月額20,000円)。

 

(1) 併用のメリット

例えば、会社側の「企業型DC」の掛け金が少ない場合、「個人型DC」を併用することにより、確定拠出年金のメリットを最大限活かすことが可能になります。
 

(2)マッチング拠出を採用している場合は併用不可 

企業型DCで「マッチング拠出」を採用している会社の場合は、個人型DCとの併用はできません。iDeCo へ加入するには、マッチング拠出の停止が必要となります。
マッチング拠出の場合、手数料はかかりませんが、事業主掛金額を上回る掛金設定ができませんので、iDeCoの制度と、微妙に相違があります。

 

(3)退職した場合 

企業型DCに加入していた方が退職した場合、企業型DCの資産をiDeCoに移し替えることも可能です。
 

(4)企業型DCと個人型DC(iDeCo)の違い 

どちらも、①老後の保障的な年金制度、②運用主体は個人、という点では共通しています。
ただし、拠出者が会社、個人と異なりますので、それぞれの目的は少し異なります。企業型DCは、従業員の福利厚生の一環とした「退職金目的」で利用されるのに対し、個人型DCは、自分で自分の老後に備えるという「直接的な目的」で利用されます。
 
企業型DCと個人型DCの主な違いは、以下の通りです。
 

企業型DC 個人型DC(iDeCo)
運用 拠出した掛金の運用は、個人(自分自身)が行う
目的 福利厚生の一環(退職金支払目的) 自分自身の老後に備えるため
加入対象 企業型DC制度を採用する会社の従業員(原則70歳未満)のみ
(原則、全員加入)
20歳以上65歳未満のすべての人(2022年改正)
(自営業者等に限らず、すでにDB、DCに加入している会社員も加入可)
掛金・納付方法 会社が負担・納付 個人が負担・納付
掛金の取扱い ・会社のルールで拠出

・拠出金は法人の損金

・自分自身のルールで拠出

・拠出金は個人の所得控除

事務・管理費用 会社負担 個人が負担
受給権の発生 規約に基づく 加入時から発生
運用先選択・運用商品 運用先は会社が選択し、当該金融機関の商品から運用商品を選択 運用先は自分で選択し、当該金融機関の商品から運用商品を選択

 

6. ご参考~選択制DC(ライフプラン手当)~

企業が大きな負担をかけることなく導入できる企業型DCとして、「選択制DC(ライフプラン手当)」という制度があります。
選択制DCとは、給与の一部を①事業主掛金として拠出するか、②給与として受け取るかを社員自身が選択する制度です。
通常の企業型DCは、会社が掛金を負担し、全社員が拠出を行うものですが、「選択型DC」は、既存の給与財源を利用して行うタイプですので、企業側にとってのメリットが大きな制度です。

例えば、月給額面40万円の方が、2万円を選択制DCにする場合、以下の選択肢が可能です。

従来通り給与額面40万を受け取る
=(ライフプラン手当(※)として2万円受け取る)
従前と変わらず
給与額面38万円に減額し、2万円を選択制DCに充てる 額面が減少する結果、社会保険料の負担が減る

(※)ライフプラン手当とは、「今受け取る」という意味です。選択制DCに充てる場合は、ライフプラン手当はゼロとなります。
会社にとっては、社会保険料の負担が減るためメリットとなりますが、従業員側は、現在の社会保険料の負担は減りますが、将来の年金受取額が減りますので、一概にメリットとは言えません。
 

7. Youtube

 
YouTubeで分かる「【2022年改正】企業型DC(企業型確定拠出年金)」

【関連記事】