NO124 【所定労働時間】利用する場面は?法定労働時間との違い/残業・欠勤控除計算時の給与単価の算定方法・年間休日・休暇の取扱い

 

正社員の場合、アルバイトと異なり、月給等で支給されることから、時給単価での計算が行われません。
こういった正社員の残業代や欠勤控除額を算定するためには、そもそも「時給」が定められていないため、各人ごとの「1時間当たりの給与単価」を算定する必要があります。

当該「給与単価」は、「各人の毎月の労働時間」を用いて算定されますが、労働時間には、「所定労働時間(日数)」と「法定労働時間(日数)」の2種類があり、どちらを適用するかによって、時間当たりの給与単価が大きく異なり、残業代等にも影響が生じます。

そこで今回は、具体例を用いて、1時間当たりの給与単価の算定方法をお伝えし、関連論点として、「所定労働時間」「法定労働時間」「年間休日」等の内容につきお伝えします。

 

1. 所定労働時間と法定労働時間の違い

 
似たような名前ですが、「労働時間」には「所定労働時間」と「法定労働時間」の2種類があります。
「法定労働時間」とは、労働基準法で定められた労働時間をさし、1日8時間、週40時間の上限が定められています(労基32条)。
一方、「所定労働時間」とは、企業ごとに就業規則によって定められている労働時間のことです。
雇用契約で定めることも可能ですが、労働基準法上の「法定労働時間」内(1日8時間、週40時間)であれば、自由に定めることが可能です。

 

例えば、9時~17時(休憩1時間、土日休み)の会社の場合、所定労働時間は35時間(7時間×5日)となります。こういった会社の「所定労働時間」は、労働基準法で定められた「法定労働時間・週40時間」よりも少ないことになります。
 

2. 「所定労働時間」を利用するケース

 
給与計算や人事関係の手続にあたっては、「法定労働時間」よりも、「所定労働時間」が関係するケースが多いです、具体的に「所定労働時間」を利用する場面は以下の通りです。

 

(1) 欠勤控除額・残業代の金額を算定する場面

欠勤控除額や、残業代本体(割増率適用前)の金額は、各人ごとの「1時間当たりの給与単価(基礎額)」を算定し、欠勤・残業時間を掛け合わせて金額を査定します。
「1時間当たりの給与額(基礎額)」を算定する際には、「所定労働時間」を利用します(法定労働時間ではない)。下記3.をご参照ください。
なお、「時給」で給与が支給されるアルバイトで等の場合は、上記算定の必要はありません。

 

(2) 法定内残業・法定外残業時間を把握する場面(残業割増率)

残業時間は、法定内残業(所定外残業)、法定外残業の2種類に区分され、法律上、法定内残業は割増率ゼロ、法定外残業は、25%の割増率と定められています。
「法定外残業」とは、「法定労働時間」を超えた残業のことを指します。一方、「法定内残業」とは、「法定労働時間」は超えないが、就業規則等に明記されている「所定労働時間」を超えている残業を指します。

 

例えば、週5、9時~17時(1時間休憩)、土日休みの会社の場合、「週の所定労働時間」は、7時間×5日=35時間になります。

 

法定内残業・法定外残業時間を把握する場面(残業割増率)

 

当該会社の従業員Aさんが、週42時間働いた場合、以下となります。

 

法定内残業 40時間(法定労働時間)-35時間(所定労働時間)=5時間
法定外残業 42時間(実際労働時間)-40時間(法定労働時間)=2時間

 

法定労働時間=所定労働時間の会社であれば、1日8時間、週40時間を超えた時間はすべて「法定外残業」となり、法定内残業は生じません。
一方、所定労働時間<法定労働時間の会社の場合は、「法定内残業」が発生します。したがって、残業割増率が適用されない「法定内残業時間」を把握するため、会社ごとの「所定労働時間」を集計する必要があります。

割増単価や休日出勤については、No231をご参照ください。

 

(3) 年次有給休暇を付与する場面

年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、付与される有給の休暇です。
有給休暇付与の要件は次の2つとなり、②の要件を満たすか否かを判断する際に「所定労働日数」が利用されます。有給休暇については、No179をご参照ください。

①雇い入れの日から6か月経過していること
②その期間の全労働日の8割以上出勤(実際労働日数が所定労働日数の8割以上)

 

3. 1時間当たりの給与単価(基礎額)の算定方法

 

(1) 月所定労働時間の算定

1時間当たりの給与単価の計算方法はいくつかありますが、実務上は、以下の方法が用いられることが一般的です。所定労働時間を使って算定します。

 

年間所定労働日数の算定 年間暦日数 - 年間休日
年間所定労働時間の算定 ① ×1日当たりの所定労働時間
月平均所定労働時間の算定 ② ÷ 12か月
1時間当たりの給与単価の算定 各人の給与 ÷ ③

小数点以下の端数が出た場合は、労働者有利となる「切上げ処理」を行います。

 

(2) 年間休日とは?

年間休日は、企業等が定める1年間の休日のことで、就業規則で定めるケースが多いです。年間休日には、①法定休日と②法定外休日の2種類があり、例えば土日休みの企業では、①法定休日は日曜日、②法定外休日は土曜日や祝日、夏季休暇、年末年始休暇などがあります。
①法定休日、②法定外休日は、どちらも「年間休日」を構成するため、所定労働日数には含まれません
一方、ややこしいですが、上記「年間休日」他に、「休暇」という概念があります。休暇とは、本来働かなければならない日を休みとする日のことで、以下の2種類があります。

 

法定休暇 有給休暇や産休、育休、介護休暇等
法定外休暇(特別休暇) 就業規則等に基づき、会社が任意で付与するリフレッシュ休暇や慶弔休暇等

当該「休暇」は、所定労働日数に含まれ、「1時間当たりの給与単価」算定時の「所定労働時間」は、上記の休暇を含めた時間となる点に注意が必要です。つまり、休暇にも賃金の支払が発生することになります。

 

(3) 月額給与の範囲

上記(1)④の「各人の給与」の範囲につき、法令上の規定はありませんが、会社ごとに「就業規則」で定めるケースが多いです。
一般的には、従業員に一律支給される手当や、業務に直接関連する手当(営業、資格手当)は含めますが、通勤距離や家族数等に比例して支給される、通勤、家族・扶養・住宅手当等は含めません.。

 

4. 計算例

【Aさんの勤務先の状況は以下。Aさんの2024年12月の残業金額は?】

● 年間休日は、就業規則で125日と定めている(うるう年ではない)。
● 1日の所定労働時間7.5時間(月~金 就業時間9時~17時半)。
● 基本給23万円 資格手当1万円、通勤手当1万円⇒合計25万円
● 2024年12月の残業は、平日1日(17時半~21時 3.5時間)のみ発生。
● 就業規則で、所定労働時間算定基礎に含める手当は「資格手当」のみ。
● 給与単価は、「月平均所定労働時間」で算定するものとする。

 

(1) 年間所定労働日数の計算

365日-125日=240日

 

(2) 月平均所定労働時間の計算

240日×7.5時間÷12カ月=150時間

 

(3) 1時間当たりの給与単価の計算

月給24万円(※)÷150時間=1,600円
(※) 基本給23万円 + 資格手当1万円 =24万円

 

(4) 法定内残業と法定外残業の区分

● 所定労働時間7.5時間×5日=37.5時間
● 残業週の実際労働時間 7.5時間×5日+3.5時間=41時間

 

上記の結果、法定内残業、法定外残業の内訳は以下となります

内訳 時間 計算
法定内残業 2.5時間 40時間(法定労働時間)-37.5時間(所定労働時間)=2.5時間
法定外残業 1時間 41時間-40時間
合計 3.5時間

 

(5) 残業手当の計算

1,600円×2.5時間+1,600円×1.25(法定外割増率)×1時間=6,000円

 

残業、休日手当、深夜手当等の割増賃金については、No231をご参照ください。

 

5. 参照URL

割増賃金の計算方法 (厚生労働省)

https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/content/contents/001107232.pdf 

しっかりマスター労働基準法(割増賃金編)

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf 

法定労働時間と割増賃金について教えてください。厚生労働省Q&A

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei07.html 

 

6. Youtube

 
YouTubeで分かる「残業代・欠勤控除」
 

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