働き方改革の一環として、「フレックスタイム制」の導入を検討する会社もあるかと思います。「フレックスタイム制」の導入により、ワークライフバランスが実現できるメリットがありますが、一方で、勤怠管理が複雑になる側面もあります。
そこで今回は、「フレックスタイム制」での残業・欠勤控除の計算方法や、休日出勤等の取扱いにつき、具体例を使ってお伝えします。
(フレックスタイム制の制度概要については、NO255をご参照ください)

 

1. 清算期間中の残業・欠勤控除の計算方法

フレックスタイム制では、「時間外労働」のカウント方法が通常とは異なり、原則として、清算期間」と呼ばれる期間を単位として残業時間・欠勤時間を集計します。したがって、残業を協定する36協定についても、「1日」単位で36協定を締結する必要はなく、清算期間(1か月や3か月)の総労働時間が法定労働時間の総枠を超える場合のみ締結します。

 
【厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き】より
清算期間中の残業・欠勤控除の計算方法

 

残業の場合(総労働時間<実労働時間) 超過時間の残業代を支払
欠勤の場合(総労働時間>実労働時間) 不足時間を賃金から控除
(or不足時間を翌月の総労働時間に加算)

 

2. 清算期間が1か月かどうか?で、残業・欠勤集計方法が異なる

フレックスタイム制では、あらかじめ「労使協定」で定められた「清算期間」が1か月以内か?1か月を超えるか?で残業・欠勤時間の集計方法が異なります

 

(1) 清算期間が1か月以内の場合

清算期間が1ヵ月以内の場合は、毎月、過不足の調整を行います。毎月の残業時間が、毎月の所定労働時間の総枠を超えた場合に残業扱いとなり、満たない場合は、原則として、欠勤扱いとなります。

 

(2) 清算期間が1か月を超える場合

清算期間が1か月を超える場合は、月をまたいで過不足の調整が可能です。
ただし、1か月ごとの実際労働時間が「週平均50時間」を超える場合は、その月については、清算期間を待たずに残業精算が必要になる点には注意が必要です(法32条の3第2項)。

 

3. 清算期間が1か月の場合の残業精算方法

清算期間が1か月の場合は、毎月の所定労働時間の総枠を超えるかどうかで判定します。毎月の所定労働時間の総枠は、月の日数によって異なります。例えば、法定労働時間(週40時間)=所定労働時間の会社の場合の、「月ごとの所定労働時間の総枠」は以下となります。

 

月の所定労働時間総枠 計算
31日 177.1時間 40時間÷7日×31日=177.1時間
30日 171.4時間 40時間÷7日×30日=171.4時間
29日 165.7時間 40時間÷7日×29日=165.7時間
28日 160時間 40時間÷7日×28日=160時間

 

例えば、3月、4月とも実際作業時間が175時間だった場合、3月は欠勤扱いとなり、4月は残業扱いとなります。以下の通りです。

実際労働時間
所定労働時間の総枠
残業・欠勤時間
① -②
3月の場合(31日) 175時間 177.1時間 △2.1時間
4月の場合(30日) 175時間 171.4時間 3.6時間

なお、就業規則で定めた場合は、清算期間が1か月の場合でも、欠勤時間を欠勤控除せず、翌月の総労働時間に加算できます(=繰越可能)。ただし、当該部分の翌月労働時間は、残業扱いとなり、割増単価での計算が必要な点には注意が必要です。
(昭和63年1月1日基発1号 労働時間 過不足の繰越)

 

4. 清算期間が1か月を超える場合の残業精算方法

清算期間が1カ月を超える場合は、月ごとに残業精算が必要なケースがあるため、残業時間の集計は、清算期間1か月の場合よりも複雑になります。

 

清算期間が1か月を超える場合、残業代を集計する時期は、以下の2回となります。

ケース タイミング
週平均50時間を超える場合 月ごとに残業時間を集計
清算期間最終月 上記①以外の残業時間を集計

 

(1) 週平均50時間を超える場合とは?

「週平均50時間」は、毎週、実際労働時間を集計して「週平均」と比較するわけではありません。週平均50時間を1か月の労働時間に換算した時間と、1か月の実際労働時間を比較して、月に1回超過の有無を判定します。

 

「週平均50時間」を、1か月の労働時間に換算する式は以下となります。

(各月の暦日数÷7日)×50時間

 

上記計算式の意味は、カッコ内でその月が「延べ何週間あるか」を算定し、50時間/週をかけ合わせています。ただし、毎月の暦日数は決まっていますので、「上記の計算」をしなくても、月ごとの「週平均50時間」に対応する「1か月の労働時間」は決まっています。下記の通りです。実務上は、下記の1か月労働時間と実際労働時間を比較して、超えていないかを確認します。

 

「週平均50時間」に対応する「1か月の労働時間」まとめ

1月 221.4H 7月 221.4H
2月(28日の場合) 200H 8月 221.4H
3月 221.4H 9月 214.2H
4月 214.2H 10月 221.4H
5月 221.4H 11月 214.2H
6月 214.2H 12月 221.4H

 

(2) 清算期間最終月に精算する残業時間

フレックスタイム制度の考え方は、「清算期間」での集計となりますので、基本的には、清算期間最終月に、清算期間中の「実労働時間」と「所定労働時間」の比較により残業・欠勤時間を集計します。しかしながら、清算期間が1か月を超える場合は、上記(1)で既に精算済の残業時間が発生しているため、清算期間最終月の残業時間の精算は、上記(1)(月ごとに精算済の残業代)を除いた残業時間を集計する必要があります。計算式は以下となります。

 

清算期間の実労働時間-清算期間の所定労働時間-週平均50時間を超えた労働時間

 

イメージをお伝えするため、具体例で解説します。

 

5. 清算期間が1か月を超える場合の具体例

⚫︎ フレックスタイム制での清算期間は、3カ月で設定。
⚫︎ 所定労働時間=法定労働時間の会社とする。
⚫︎ 7~9月(清算期間)の所定労働日数は92日(所定労働時間は525.7H)。
⚫︎ 7~9月(清算期間)の実労働時間&週平均50時間換算月時間は以下とする。

 

清算期間の
所定労働時間
実労働時間
週平均50時間
換算月時間②
超過時間
①-②
7月 230H 221.4H 8.6H
8月 170H 221.4H 0H
7月 160H 214.2H 0H
合計 525.7H 560H 657H

 

(1) 月ごとの残業精算時間

7月のみ週平均50時間を超えているため、7月は8.6Hの残業精算が必要です
なお、7月の残業精算時間は、あくまで50時間を超えた8.6Hのみで、58.6Hにはならない点にも注意が必要です(な8月、9月はマイナスとなりますので、残業精算はありません)。

 

(2) 清算期間最終月での残業精算時間

清算期間(7月~9月 92日)における所定労働時間525.7Hですので、清算期間最終月での残業精算時間は、清算期間中の「所定労働時間」と、「実労働時間」の差額のうち、上記(1)月ごとの残業精算時間8.6Hを除いた時間を集計します。

 

清算期間の実労働時間-清算期間の所定労働時間-週平均50時間を超えた労働時間

 

560H(実労働時間)- 525.7H(清算期間の所定労働時間)- 8.6H(7月の残業精算済時間) = 25.7H

 

6. 休日労働・深夜労働の取扱い

フレックスタイム制では、法定休日労働、深夜労働の時間は、清算期間における「総労働時間」や「時間外労働」とは別個 のものとして取り扱われ、割増賃金率で計算した賃金の支払が必要となります。

 
【厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き】より
休日労働・深夜労働の取扱い

 

7. 参照URL

フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き
https://jsite.mhlw.go.jp/yamagata-roudoukyoku/content/contents/000382401.pdf

 

8. Youtube

 

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