NO256【具体例付】フレックスタイム制での残業時間・欠勤時間の計算方法/休日出勤の取扱いは?
働き方改革の一環として、「フレックスタイム制」の導入を検討する会社もあるかと思います。「フレックスタイム制」の導入により、ワークライフバランスが実現できるメリットがありますが、一方で、勤怠管理が複雑になる側面もあります。
そこで今回は、「フレックスタイム制」での残業・欠勤控除の計算方法や、休日出勤等の取扱いにつき、具体例を使ってお伝えします。
(フレックスタイム制の制度概要については、NO255をご参照ください)
目次
1. 清算期間中の残業・欠勤控除の計算方法
フレックスタイム制では、「時間外労働」のカウント方法が通常とは異なり、原則として、「清算期間」と呼ばれる期間を単位として残業時間・欠勤時間を集計します。したがって、残業を協定する36協定についても、「1日」単位で36協定を締結する必要はなく、清算期間(1か月や3か月)の総労働時間が法定労働時間の総枠を超える場合のみ締結します。
【厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き】より
残業の場合(総労働時間<実労働時間) | 超過時間の残業代を支払 |
---|---|
欠勤の場合(総労働時間>実労働時間) | 不足時間を賃金から控除 (or不足時間を翌月の総労働時間に加算) |
2. 清算期間が1か月かどうか?で、残業・欠勤集計方法が異なる
フレックスタイム制では、あらかじめ「労使協定」で定められた「清算期間」が1か月以内か?1か月を超えるか?で残業・欠勤時間の集計方法が異なります。
(1) 清算期間が1か月以内の場合
清算期間が1ヵ月以内の場合は、毎月、過不足の調整を行います。毎月の残業時間が、毎月の所定労働時間の総枠を超えた場合に残業扱いとなり、満たない場合は、原則として、欠勤扱いとなります。
(2) 清算期間が1か月を超える場合
清算期間が1か月を超える場合は、月をまたいで過不足の調整が可能です。
ただし、1か月ごとの実際労働時間が「週平均50時間」を超える場合は、その月については、清算期間を待たずに残業精算が必要になる点には注意が必要です(法32条の3第2項)。
3. 清算期間が1か月の場合の残業精算方法
清算期間が1か月の場合は、毎月の所定労働時間の総枠を超えるかどうかで判定します。毎月の所定労働時間の総枠は、月の日数によって異なります。例えば、法定労働時間(週40時間)=所定労働時間の会社の場合の、「月ごとの所定労働時間の総枠」は以下となります。
月の所定労働時間総枠 | 計算 | |
---|---|---|
31日 | 177.1時間 | 40時間÷7日×31日=177.1時間 |
30日 | 171.4時間 | 40時間÷7日×30日=171.4時間 |
29日 | 165.7時間 | 40時間÷7日×29日=165.7時間 |
28日 | 160時間 | 40時間÷7日×28日=160時間 |
例えば、3月、4月とも実際作業時間が175時間だった場合、3月は欠勤扱いとなり、4月は残業扱いとなります。以下の通りです。
実際労働時間 ① |
所定労働時間の総枠 ② |
残業・欠勤時間 ① -② |
|
---|---|---|---|
3月の場合(31日) | 175時間 | 177.1時間 | △2.1時間 |
4月の場合(30日) | 175時間 | 171.4時間 | 3.6時間 |
なお、就業規則で定めた場合は、清算期間が1か月の場合でも、欠勤時間を欠勤控除せず、翌月の総労働時間に加算できます(=繰越可能)。ただし、当該部分の翌月労働時間は、残業扱いとなり、割増単価での計算が必要な点には注意が必要です。
(昭和63年1月1日基発1号 労働時間 過不足の繰越)
4. 清算期間が1か月を超える場合の残業精算方法
清算期間が1カ月を超える場合は、月ごとに残業精算が必要なケースがあるため、残業時間の集計は、清算期間1か月の場合よりも複雑になります。
清算期間が1か月を超える場合、残業代を集計する時期は、以下の2回となります。
ケース | タイミング | |
---|---|---|
① | 週平均50時間を超える場合 | 月ごとに残業時間を集計 |
② | 清算期間最終月 | 上記①以外の残業時間を集計 |
(1) 週平均50時間を超える場合とは?
「週平均50時間」は、毎週、実際労働時間を集計して「週平均」と比較するわけではありません。週平均50時間を1か月の労働時間に換算した時間と、1か月の実際労働時間を比較して、月に1回超過の有無を判定します。
「週平均50時間」を、1か月の労働時間に換算する式は以下となります。
上記計算式の意味は、カッコ内でその月が「延べ何週間あるか」を算定し、50時間/週をかけ合わせています。ただし、毎月の暦日数は決まっていますので、「上記の計算」をしなくても、月ごとの「週平均50時間」に対応する「1か月の労働時間」は決まっています。下記の通りです。実務上は、下記の1か月労働時間と実際労働時間を比較して、超えていないかを確認します。
「週平均50時間」に対応する「1か月の労働時間」まとめ
1月 | 221.4H | 7月 | 221.4H |
---|---|---|---|
2月(28日の場合) | 200H | 8月 | 221.4H |
3月 | 221.4H | 9月 | 214.2H |
4月 | 214.2H | 10月 | 221.4H |
5月 | 221.4H | 11月 | 214.2H |
6月 | 214.2H | 12月 | 221.4H |
(2) 清算期間最終月に精算する残業時間
フレックスタイム制度の考え方は、「清算期間」での集計となりますので、基本的には、清算期間最終月に、清算期間中の「実労働時間」と「所定労働時間」の比較により残業・欠勤時間を集計します。しかしながら、清算期間が1か月を超える場合は、上記(1)で既に精算済の残業時間が発生しているため、清算期間最終月の残業時間の精算は、上記(1)(月ごとに精算済の残業代)を除いた残業時間を集計する必要があります。計算式は以下となります。
イメージをお伝えするため、具体例で解説します。
5. 清算期間が1か月を超える場合の具体例
⚫︎ 所定労働時間=法定労働時間の会社とする。
⚫︎ 7~9月(清算期間)の所定労働日数は92日(所定労働時間は525.7H)。
⚫︎ 7~9月(清算期間)の実労働時間&週平均50時間換算月時間は以下とする。
清算期間の 所定労働時間 |
実労働時間 ① |
週平均50時間 換算月時間② |
超過時間 ①-② |
|
---|---|---|---|---|
7月 | 230H | 221.4H | 8.6H | |
8月 | 170H | 221.4H | 0H | |
7月 | 160H | 214.2H | 0H | |
合計 | 525.7H | 560H | 657H |
(1) 月ごとの残業精算時間
7月のみ週平均50時間を超えているため、7月は8.6Hの残業精算が必要です
なお、7月の残業精算時間は、あくまで50時間を超えた8.6Hのみで、58.6Hにはならない点にも注意が必要です(な8月、9月はマイナスとなりますので、残業精算はありません)。
(2) 清算期間最終月での残業精算時間
清算期間(7月~9月 92日)における所定労働時間525.7Hですので、清算期間最終月での残業精算時間は、清算期間中の「所定労働時間」と、「実労働時間」の差額のうち、上記(1)月ごとの残業精算時間8.6Hを除いた時間を集計します。
560H(実労働時間)- 525.7H(清算期間の所定労働時間)- 8.6H(7月の残業精算済時間) = 25.7H
6. 休日労働・深夜労働の取扱い
フレックスタイム制では、法定休日労働、深夜労働の時間は、清算期間における「総労働時間」や「時間外労働」とは別個 のものとして取り扱われ、割増賃金率で計算した賃金の支払が必要となります。
【厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き】より
7. 参照URL
フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き
https://jsite.mhlw.go.jp/yamagata-roudoukyoku/content/contents/000382401.pdf
8. Youtube