No257【退職後の社会保険】任意継続制度とは?手続は勤務先がやってくれるのか?加入できる期間や保険料の算定方法/メリットデメリット
会社を退職した場合、すぐに再就職しない限り、原則として、会社の「健康保険」から「国民健康保険」への切替が必要となりますが、在職時の「健康保険」を、引き続き継続して利用することができる「任意継続」という制度があります。
今回は「任意継続制度」の概要や手続、メリットデメリット等を中心に解説します。
目次
1. 任意継続制度とは?加入要件・加入手続
(1) 任意継続制度とは?
「任意継続制度」は、退職後も、在職時に加入していた健康保険を継続できる制度です。退職に限らず、パート等の方が、雇用時間の短縮・月額賃金の減少等により、健康保険被保険者の資格を喪失した場合も利用できます。
(2) 加入期間・加入期間中の取扱い
加入できる期間は、最長で2年間となります。
任意継続期間中は、原則として、在職中と変わらない保険給付を受けることができますが、傷病手当金・出産手当金は、支給されない点には注意が必要です
(この点に関しては、国民健康保険も同じ)。
(3) 加入要件
加入できる方や、加入要件は以下となります。
対象者 | 退職や被保険者適用除外により、資格を喪失した者であること |
---|---|
要件 | 資格喪失日の前日までの「被保険者期間」が、継続して2ヶ月以上 |
なお、75歳以上は、「後期高齢者医療制度」の対象となるため、任意継続に加入することはできません。
(4) 加入手続・申請期日
任意継続は、「在職時に加入していた健康保険」に申し出を行いますが、以前の勤務先がやってくれるわけではなく、ご自身で行う必要があります。
申請期日は、資格喪失日(=退職日の翌日等)から20日以内と非常に短い期間となっています。初回の納付保険料を期日までに納付しなかった場合は、任意継続被保険者になれない点には注意が必要です。
(5) 提出書類
協会けんぽの場合、「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」を提出します。マイナンバーで情報照会可能な場合、原則として「添付書類」はありませんが、「被扶養者となる方」がいる場合は、以下の書類の添付が必要です。
被扶養者と同居 | 添付書類不要 |
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被扶養者と別居 | 1回あたりの仕送り額が確認できる書類 |
なお、「任意継続資格取得」と同時に、新たに被扶養者になる場合は、追加で①続柄証明書類②収入証明書類③(同居の場合)同居証明書類の添付が必要です。
2. 保険料算定方法 (上限は30万円・全額自己負担に注意)
保険料は、原則として、「資格喪失時(退職時等)の標準報酬月額」で決定されます。料率は都道府県によって異なりますが、概ね9~12%程度となっています(令和6年4月~)。ただし、協会けんぽの場合、負担額の上限が決められており、退職時の標準報酬月額が30万円を超える場合、標準報酬月額は30万円で計算します(健康保険組合は、組合ごとに上限額は異なる)。前職の収入が多い方は、「任意継続」にすることで、保険料が安くなる場合がありますが、在職時は労使折半だった保険料が、任意継続後は、全額自己負担となる点には注意が必要です。
3. 資格を喪失するケース
次のいずれかに該当する場合は、被保険者の資格を喪失します。喪失した場合は、協会けんぽ等に保険証等を返還します。
喪失するケース | 手続 |
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被保険者となって2年経過時 | 特になし。「任意継続被保険者資格喪失通知書」が送付される |
保険料を納付期限までに納付しなかった場合(納付期日翌日) | |
就職して社会保険などに再加入or後期高齢者医療制度の対象となった場合 | 「任意継続被保険者資格喪失申出書」を提出 |
任意継続制度継続中止を希望する場合(申出翌月1日に喪失) | |
加入者が亡くなった場合 | 上記「資格喪失申出書」に合わせて「埋葬料(費)支給申請書」を提出 |
協会けんぽの場合、納付期日は、その月の10日となります。期日までに保険料を納め忘れてしまうと、納付期限翌日に資格を喪失してしまいます。任意継続の資格は、一度喪失してしまうと再取得できない点には、十分注意が必要です。
4. 任意継続以外の選択肢は?
社会保険資格喪失後、「任意継続以外」で選択できる保険制度は、以下の2つです。
保険制度 | 留意事項 | |
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国民健康保険に加入(市町村) | 国民健康保険制度には「扶養」という概念がないため、在職時に扶養家族だった場合も、退職後は新たに国民健康保険に加入が必要となります。 また、保険料は、世帯内加入者全員の前年所得等をもとに決定されます(※1)。 したがって・・ ● 「扶養家族」がいる場合、扶養家族の収入も含めた世帯全体の保険料が上がる可能性がある。 ● 「扶養家族」がいない場合でも、前職の所得が多い場合は、保険料が高額になるケースがある。(※2) |
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健康保険に加入している家族の被扶養者になる | 共働き世帯など、家族が加入している勤務先の「健康保険」の被扶養者となることも選択肢の一つです。 ただし、健康保険の「被扶養者」認定を受けるためには、次の①及び②を満たす必要があります。 ● 年間収入が130万円未満(60歳以上の方や、障害者の場合は180万円未満)(※3) ● 被保険者の年間収入の2分の1未満 |
(※1)倒産や解雇により離職された方など、退職理由によっては、保険料が減額される場合があります。
(※2)一方、保険料は、前年所得に基づいて決定されるため、前年収入が減少した場合は、国民健康保険料の負担額は減額されます。
(※3)社会保険上の「収入」の範囲については、No203ご参照ください。
5. 任意継続のメリット・デメリットまとめ
上記を踏まえて、任意継続のメリットデメリットをまとめると、以下となります。
メリット | デメリット |
---|---|
● 協会けんぽの場合、標準報酬月額30万円の上限が定められているため、前職の収入が多い場合は、「任意継続」を選択する方がお得になるケースがある。 ● 前職在職時と同様、家族分の保険料負担なしで、家族を扶養に入れることが可能。 ● 加入健康保険によっては、在職時と同様の福利厚生サービスを利用することも可能(例 特別価格での保養施設の利用等) |
● 原則、保険料は定額のため、退職後、所得が減少した場合は、トータル保険料が高額になるケースがある。 ● 在職時は労使折半だった保険料が、任意継続後は、事業主負担保険料分も含めて全額個人負担 |
6. 任意継続と国民健康保険どちらがお得か?
国民健康保険と任意継続のどちらが得か?は、加入している健保組合や月収、扶養親族等の人数によって異なりますが、大きな方向性を以下にまとめます。
(1) 上限の観点
前職の収入が多い方の場合は、標準報酬月額30万円の上限が定められている「任意継続」を選択する方がお得なケースが多いです(協会けんぽの場合)。ただし、任意継続の場合、以前の勤務先が負担していた「会社負担分」も含めてご自身側で負担する必要があります。従業員負担額は、おおむね社会保険料の1/2相当額ですので、上記の「標準報酬月額30万円」を会社負担額も含めて標準報酬月額に換算した場合は、60万円に相当することになります。上記を前提に、前職時代と比較した保険料負担関係は、以下となります。
前職の標準報酬月額 | 任意継続後の保険料負担(前職時代と比較) |
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60万円程度以上 | 保険料は下がる |
60万円程度以下 | 保険料は上がる |
おおむね「標準報酬60万程度」以上の方は、任意継続を選択すると、勤務時代よりも保険料は下がることになります。
(2) 被扶養者の観点
任意継続では、本人のみの保険料で、扶養家族分も加入できますので、扶養家族が多い場合は、国民健康保険よりも保険料が下がる可能性が高いです。
(3) 結論
一般的に、協会けんぽの場合、現状の保険料率では、独身でも月収40万程度を超えてくると「任意継続」の方が保険料が安く収まると試算されています。一方で、例えば独立される場合などでは、当面の収入が下がるケースもあります。国民健康保険は、前年所得の金額で保険料が決定されますので、独立初年度の収入が激減した結果、独立2年目は保険料が安く収まるケースもありえます。したがって、退職初年度は任意継続、2年目は国民健康保険に切り替えなどの選択肢も考えられます。
国民健康保険については、各市町村HPで、保険料額シミュレーションツールがあります。前年所得・扶養の有無、お住まいの自治体の保険料減免制度などを基に、総合的に判断することをお勧めします。
7. 国民年金の加入は別途必要
今回の論点は、あくまで「健康保険」の論点なります。健康保険だけではなく、退職と同時に「厚生年金保険」の被保険者資格も喪失となりますので、健康保険とは別に、お住まいの市区町村役場で、国民年金への切替手続が必要です(20歳以上60歳未満の方)。
また、前職在職中に配偶者(20歳~60歳)が被扶養者となっていた場合、配偶者についても、国民年金への加入手続が必要となります。
8. 参照URL
協会けんぽ退職後の健康保険のご案内(任意継続)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat710/sb3160/sb3180/
協会けんぽ資格の喪失について
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat650/r323/
9. Youtube