No31.【わかりやすく】高額療養費制度とは?自己負担限度額の計算は(協会けんぽ・国民健康保険等)/外来や月またぎの取扱い/医療費控除との相違点
「高額療養費制度」とは、1か月(1日~月末)の病院等での窓口負担額が、「自己負担限度額」を超えた場合に、超えた医療費につき公的医療保険から払い戻される制度です。
自己負担限度額は年齢や所得によって異なり、また、高額療養費の対象とならない医療費もあります。
今回は、「高額療養費制度」の対象や、自己負担限度額につきお伝えします(カッコ書きのQは、「高額療養費制度を利用される皆さまへ 厚生労働省保険局」よくあるご質問)。
目次
1. 高額療養費の対象・集計期間等
(1) 支給対象(Q2)
高額療養費として払い戻される医療費は、公的医療保険が適用される医療費です。
病院等の診療費に限らず、薬局等で処方される薬代等も含まれます。
一方、保険適用外の費用は「高額療養費制度」の対象になりません。例えば、一般的に、以下のような費用は、高額療養費の対象となりません。
● レーシック・インプラント等の自由診療(保険適用外)
● 差額ベッド代・入院中の食費や衣類費、居住費の一部負担費用
● 先進医療にかかる費用
(2) 集計期間(月またぎは×)
高額療養費は、毎月暦月(1日~月末)にかかった医療費をもとに決定されます。月をまたぐ場合は、診療月ごとに集計し、提出します。
(3) 請求期限(Q4)
高額療養費の請求期限は2年です(診療受診月翌月から2年)。2年を超えていない高額療養費であれば、過去にさかのぼって請求も可能です。
(4) 申請方法
窓口で一旦自己負担分を支払い、後日加入保険者(協会けんぽ、国民健康保険等)に申請して、払い戻しを受けます。原則として、領収書の提出が必要となります。
なお、加入保険者によっては申請が不要なところもありますので、加入保険者に問い合わせが必要です。
2. 自己負担限度額
高額療養費は、毎月の「自己負担限度額」を超えた金額につき支給されます。当該「自己負担限度額」は、大きく、①69歳以下と70歳以上で区分され、また、②年収(or年間課税所得)によって細かく規定されています(75歳以上は、後期高齢者医療制度となり、「一般区分」が2つに分かれますが、今回は省略します)。
69歳以下及び70歳以上に分けて「自己負担限度額」をまとめると、以下の通りです。
(1) 69歳以下
適用区分(※) | 1月の自己負担上限額(世帯ごと) |
---|---|
年収約1,160万円~ 健保:標準報酬月額83万円以上 国保:課税所得901万円超 |
252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
年収約770万円~約1,160万円 健保:標準報酬月額53万円~79万円 国保:課税所得600万~901万円 |
167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
年収約370万円~約770万円 健保:標準報酬月額28万円~50万円 国保:課税所得210万~600万円 |
80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
年収約156万円~約370万円 健保:標準報酬月額26万円以下 国保:課税所得210万円以下 |
57,600円 |
住民税非課税世帯 | 35,400円 |
(2) 70歳~75歳未満
70歳~75歳未満の場合は、外来にかかる自己負担限度額の制限があります。
適用区分(※) | 1月の自己負担上限額(世帯ごと) | ||
---|---|---|---|
外来・入院 (世帯ごと) |
うち、外来 (個人ごと) |
||
年収約1,160万円~ 標準報酬月額83万円以上 課税所得690万円以上 |
252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 現役 並みⅢ |
|
年収約770万円~約1,160万円 標準報酬月額53万円~79万円 課税所得380万円~690万円 |
167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 現役 並みⅡ |
|
年収約370万円~約770万円 標準報酬月額28万円~50万円 課税所得145万円~380万円 |
80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 現役 並みⅠ |
|
年収156万円~約370万円 標準報酬月額26万円以下 課税所得145万円未満等 |
57,600円 | 18,000円 (年上限144,000円) |
一般 |
住民税非課税世帯 (下記、区分Ⅰ以外) |
24,600円 | 8,000円 | 区分Ⅱ |
住民税非課税世帯 (年金収入80万円以下など) |
15,000円 | 区分Ⅰ |
(※)サラリーマンの方(健康保険)は標準報酬月額(=給与)、自営業の方(国民健康保険)は合計総所得の金額で判定します。
サラリーマンの方(健康保険) | 健康保険の被保険者の場合、自己負担限度額は「標準報酬月額」によって決定されます。標準報酬月額は、毎年4~6月に支給された報酬(手当等も含む)の平均額をもとに決定されます。 |
---|---|
自営業の方(国民健康保険) | 国民健康保険の被保険者の場合、自己負担限度額は、「世帯ごとの合計総所得」で決定されます。世帯ごとの合計総所得は、下記で算定します。 前年の総所得金額(※)+山林所得+株式の配当所得+土地・建物等の譲渡所得金額-住民税基礎控除額(43万円) |
(※) 総所得金額等
● 退職所得は含まれません。
● 雑損失の繰越控除 は控除しません。
● 分離長期・短期譲渡所得の特別控除 は控除します。
3. 具体例
● ケガで入院し、月100万円の医療費発生(自己負担割合3割とします)
① | 窓口負担額の金額 | 300,000円 | 1,000,000円×30%=300,000 |
---|---|---|---|
② | 自己負担限度額の計算 | 87,430円 | 80,100円+(1,000,000-267,000円)×1% |
③ | 超過分(返金額) | 212,570円 | ①-② |
厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」より引用
4. その他負担を軽減する制度
(1) 限度額適用認定証(Q6,Q3)
高額療養費制度は、あくまで後から払い戻しされる制度のため、当初窓口での支払負担が大きくなるケースがあります。払い戻しまでの期間は、受診月から少なくても3か月程度はかかります(Q3)。
そこで、高額の資金負担を和らげる観点で、「限度額適用認定証」の制度が設けられています。あらかじめ加入保険者(協会けんぽ、国民健康保険等)に「限度額適用認定証」を申請し、窓口で、「認定証」の他、保険証、高齢受給者証を提示すると、1ヵ月の窓口支払額は、自己負担限度額まで抑えることができます。
(70歳以上75歳未満の方で、所得区分が一般、現役並みⅢの方は提示不要。75歳以上の方は、後期高齢者医療被保険者証(75歳以上)の提示でOK)。
その他、窓口支払資金を無利子で借りられる「高額医療費貸付制度」もあります。例えば「協会けんぽ」の場合、還付金額の8割相当額までの借入が可能です。
(2) 世帯合算(Q9)
個人の窓口負担で自己負担限度額を超えない場合でも、世帯内で同一の医療保険に加入している方は、1か月単位で合算して限度額を超えれば、高額療養費の払い戻しが可能です。
(3) 多数回該当
過去12か月以内に3回以上、自己負担上限額に達した場合は、4回目から「多数回該当」となり、自己負担限度額が下がります。
(4) 高額療養費の支給の特例(Q5)
人工透析 やHIV等、非常に高額な治療を長期間継続しなければならない方については、特例が設けられています。この特例措置が適用される場合は、原則として負担の上限額は月額1万円となります。
(5) 高額医療・高額介護合算療養費制度(合算療養費制度)(Q7)
合算療養費制度とは、世帯内で同一の医療保険加入者がいる場合、毎年8月から1年間にかかった医療保険と介護保険の自己負担を合計し、基準額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。当該制度は、今回の「高額療養費」制度とは全く別の制度です。高額療養費制度が「月」単位で負担を軽減するのに対し、合算療養費制度は、高額療養費制度を活用した場合でも、なお重い負担が残る場合に、「年」単位で負担を軽減する制度です。
5. 「医療費控除」との関係
医療費控除とは、一定額の医療費がある場合に、所得税が安くなる税法上の制度です。今回の高額療養費は医療保険上の制度のため、制度としては全く別物となりますが、医療費負担を軽減する点では共通しています。
比較すると以下となります(Q8)。
高額療養費(医療保険) | 医療費控除(所得税法) | |
---|---|---|
制度 | 医療保険(協会けんぽ・国民健康保険等) | 税金の制度 |
内容 | 医療費高額部分の払戻し | 医療費負担額の所得控除 |
対象期間 | 月初~月末の1か月間 (同一の暦月内) |
1月~12月の1年間 |
なお、高額療養費として払戻を受ける部分は、医療費控除の対象から除外する必要があります。
コチラもご参照ください。
6. ご参考~「高額医療費負担金」とは異なる!
今回の「高額療養費」と間違いやすいものとして、「高額医療費負担金」があります。「高額医療費負担金」とは、国民健康保険加入者の医療費が高額(1件当たり80万円)な場合、市町村の財政負担を軽減するため、超えた分の1/4ずつを、国と都道府県が負担する制度です。つまり、当該負担金は、国民健康保険加入者の負担の話ではなく、保険金を負担する国民健康保険(市町村)に対して、県や国が補う制度のことで、今回の「高額療養費」とは全く異なる制度です。
当該「高額医療費負担金」は廃止し、市町村負担にする方向で進められています(令和4年7月 財務省「令和4年度 予算執行調査の調査結果の概要」)。
廃止の影響により、地方の負担が増えますので、国民健康保険料の値上げ、高額療養費の上限額の引き上げ、住民税などの地方税を増加することも考えられます。
7. 参照URL
【高額療養費・70歳以上の外来療養にかかる年間の高額療養費・高額介護合算療養費】
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31709/1945-268/
【医療費が高額になりそうな時(限度額適用認定証)】
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3020/r151/
【高額療養費制度を利用される皆さまへ】
https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf