NO255【フレックスタイム制】導入方法/労使協定でのルール作成・残業時間や休日出勤の集計方法・メリットデメリット/向いている企業は?
コロナ禍を背景に、「多様な働き方」を実現する手法として、「フレックスタイム制」の導入を検討される企業もあるかもしれません。
「フレックスタイム制」は、自由な勤務形態が実現できるイメージがありますが、その反面、各従業員に自己管理能力が求められる側面もあります。したがって、導入に当たっては、会社と従業員の間で「詳細なルール」を決めておく必要があります。
そこで今回は、「フレックスタイム制」の導入方法や、会社と従業員とのルール、「就業規則」や「労使協定」の内容を中心にお伝えします。
目次
1. フレックスタイム制とは?
「フレックスタイム制」とは、労働者が、日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることによって、生活と業務との調和を図りながら効率的に働くことができる制度です。
導入する多くの企業は、必ず勤務が必要な「コアタイム」と、自由に勤務が可能な「フレキシブルタイム」を設定しています。例えば、子供の関係で、週1回コアタイムのみ出勤し、他の日にその分多く出勤することも可能です。
「フレックスタイム制度」では、最低限「コアタイム」に出勤していれば、足りない部分は、あらかじめ決められた「清算期間」の範囲内で、所定労働時間をクリアすれば欠勤扱いにはなりません。逆に、勤務時間が1日の所定労働時間を超えた場合でも、「清算期間」の範囲内で、「総労働時間」を超過しなければ、残業代は発生しません。
なお、「コアタイム」の設定は必須ではありませんので、すべての時間を「フレキシブルタイム」に設定している会社もあります(スーパーフレックスタイム)。
2. メリット・デメリット
フレックスタイム制のメリットデメリットをまとめると、以下の通りです。
(1) メリット
ワークライフバランス・モチベーションの向上 (従業員側) |
● 従業員が自由に勤務形態を選べるため、ワークライフバランスの実現ができ、仕事に対するモチベーション、業務効率や生産性の向上が期待できる。 ● 通勤時間をずらすことで、通勤ラッシュを避けることが可能。 |
---|---|
採用の幅が広がる・人材の定着 (会社側) |
● フレキシブルな働き方は、「働きやすい職場」という企業イメージが期待でき、多くの求職者から注目が集まる。 ● 就業環境の改善は、仕事に対するモチベーション向上を通じて、従業員の離職率の低下につながる。 |
従業員の能力向上 (会社側) |
● 総労働時間の中で予定を立て、実行に移していく自己管理能力が高まる。 ● 限られた「コアタイム」での打ち合わせの機会が多くなるため、他の従業員との調整能力が高まる。 |
(2) デメリット
ワコミュニケーション不足に陥る可能性 (会社側・従業員側) |
同じ時間帯にオフィスにいる従業員が少なくなるため、コミュニケーション不足、情報共有・チームワークがスムーズに進まない可能性がある。 |
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生産性低下の可能性 (会社側) |
● 複数のメンバーで同時に1つの仕事に取り組むケースなどで、業務の生産性が低下する可能性がある。● オフィスの稼働時間は長くなるため、光熱費は増加する。 |
勤怠管理が複雑 (会社側) |
個々の労働時間・休憩時間の実態の把握が困難となり、人事管理の手間が増える可能性がある。 |
自己管理が求められる (従業員側) |
自由度が高い反面、各従業員に自己管理能力が求められるため、自己管理が苦手な従業員の場合は、業務効率が落ちる可能性あり。 |
3. フレックスタイム制の導入方法・導入要件
フレックスタイム制を導入するためには、①就業規則の規定と②労使協定の締結が必要になります。
(1) 就業規則の規定
就業規則等に「始業・終業時刻の決定を対象者に委ねる」旨を規定しなければなりません(常時10人未満の事業所は、就業規則に準じる書類)。
コアタイムやフレキシブルタイムを設ける場合は、具体的な時間帯の範囲も規定します。
【出典 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署】
なお、「就業規則」を変更する場合は、①変更内容を従業員に周知し、②労働基準監督署に届出が必要となります。
(2) 労使協定の締結
労使協定とは、使用者と労働者が締結する協定であり、フレックス制を導入する場合は、「労使協定」を締結する必要があります。労使協定では、基本的に、下記の5つのルールを定めます。
➀対象者②清算期間③清算期間における所定労働時間④標準となる1日の労働時間⑤コアタイム・フレキシブルタイムなどです。以下、5つのルールの内容をお伝えします。
4. 労使協定で定めるルールは5つ
労使協定で定めるルールは、大きく、下記の5つとなります。
(1) 対象となる労働者の範囲
「フレックスタイム制」の対象となる労働者の範囲には、特に制限はありません。特定の部署や個人ごとへの適用も可能です。ただし、従業員と締結する「労使協定」の中で、対象労働者の範囲を定める必要があります。
なお、パートやアルバイトは、そもそも、自由な時間で働く勤務形態のため、フレックスタイム制にはあまりなじみません。したがって、正社員をフレックスタイム制の対象とする企業が多いです。なお、満18歳未満の労働者は、フレックスタイム制を導入できません(労基法60条)。
(2) 清算期間
フレックスタイム制では、「清算期間」と呼ばれる「一定期間」の労働時間の範囲内で、労働者が自由に始業・終業・働く時間を決めることができます。
導入にあたっては、当該「清算期間」を労使協定で定める必要があります。清算期間の上限は3か月となりますが、1ヶ月を超える「清算期間」とする場合は、「労使協定」を労働基準監督署に届出する必要があります。
なお、部署ごと、個人ごとに「清算期間」を変えることも可能です。
(3) 清算期間における所定労働時間
上記(2)で決定した「清算期間」中の「所定労働時間」を定めます。
フレックスタイム制では、基本的に「清算期間」を1単位として所定労働時間を設定し、当該所定労働時間との比較により、残業や欠勤集計を行います。
清算期間における所定労働時間は、以下の式で算定した「法定労働時間」の総枠の範囲内にしなければいけません。
なお、月ごとの「暦日数」はあらかじめ決まっていますので、都度、上記計算式で「清算期間の所定労働時間」を算定する必要はありません。実務上は、下記の表(「清算期間」ごとの暦日数対応労働時間)を用いて、その範囲内で「清算期間の所定労働時間」を設定します。
1か月(清算期間) | 2か月(清算期間) | 3か月(清算期間) | |||
---|---|---|---|---|---|
暦日数 | 労働時間 | 暦日数 | 労働時間 | 暦日数 | 労働時間 |
31日 | 177.1H | 62日 | 354.2H | 92日 | 525.7H |
30日 | 171.4H | 61日 | 348.5H | 91日 | 520.0H |
29日 | 165.7H | 60日 | 342.8H | 90日 | 514.2H |
28日 | 160.0H | 59日 | 337.1H | 89日 | 508.5H |
(4) 標準となる1日の労働時間
標準となる1日の労働時間とは、「有給休暇」を取得した際に、何時間労働したものとして賃金を計算するか?を定めたものです。フレックスタイム制において「有給休暇」を取得した場合は、この「標準となる1日の労働時間」労働したものとして取扱います。通常は、1日の所定労働時間で設定します。
(5) コアタイム・フレキシブルタイム(任意)
コアタイムは、1日のうちで必ず働かければならない時間帯、フレキシブルタイムは「その時間帯であればいつ出社または退社してもよい時間」です。
必ず設ける必要はありませんが、設ける場合は、労使協定で、その時間帯の開始および終了時刻を明記する必要があります。
一般的には、実労働時間の把握や、勤怠管理を効果的に行うため、コアタイム・フレキシブルタイムを設定するケースが多いです。
【労使協定の具体例】
【出典 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署】
5. 休憩時間の取扱い/特定の時間の出勤の強制は?
(1) 休憩時間
フレックスタイム制でも、労働基準法の規定通り、勤務時間中に休憩時間を設ける必要があります。多くの企業は、休憩時間をコアタイム中に設定しています。
(2) 特定の時間の出勤強制は可能?
原則として、コアタイム以外で出勤時間・退勤時間の指定はできませんが、労使協定や就業規則に条項を追加することは可能です。例えば、「必要に応じて早出又は居残りを命じることがある」などを規定しておきます。
6. コアタイムに出勤しない場合の取扱い
(1) 欠勤扱いとなる
コアタイムを設定している場合、従業員は、コアタイムの開始時刻から終了時刻までの間は必ず勤務をしなければなりません。コアタイムに出勤していない場合は、欠勤扱いとなります。
(2) 欠勤控除は不可
ただし、コアタイム欠勤の場合でも、直ちに賃金から欠勤控除することはできません。フレックスタイム制では、清算期間で残業・欠勤の集計が行われるため、清算期間内の実際労働時間が所定労働時間(総労働時間)を満たしている場合は、たとえコアタイムに欠勤していた場合でも、欠勤控除はできないしくみになっています。
(3) コアタイム欠勤のペナルティ設定は可能
コアタイムに出勤しなくても欠勤控除にならないのであれば、コアタイムを設けた意味がなくなります。そこで、就業規則において、コアタイムに欠勤した場合のペナルティ等を設定する会社もあります。
【ペナルティの就業規則 具体例】
(4) 遅刻常習者等への対応
労使協定や就業規則で、「勤務態度が不良な者については、会社の判断でフレックスタイム制の適用対象から除外できる」旨の規定をしておけば、遅刻を繰り返し、勤務態度を改善しないような従業員を、フレックスタイム制の適用対象から除外することも可能です。
7. フレックスタイム制が適した職種・適さない職種
自由な勤務形態が魅力のフレックスタイム制ですが、業種によっては業務の不効率が発生する可能性もあります。フレックスタイム制は、必ずしもすべての業種にメリットがあるわけではない点には注意が必要です。
適する業種・適さない業種をまとめると、以下となります。
内容 | 具体例 | |
---|---|---|
適した業種 | ある程度個人で仕事に取り組むことができ、時間や場所にとらわれずに働くことができる職種 | エンジニア・デザイナー・研究職など |
適さない業種 | 社内外との連携が多い職種や、持ち場を離れることができない職種 | 営業職・サービス業・工場内作業など |
8. 参照URL
フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き
https://jsite.mhlw.go.jp/yamagata-roudoukyoku/content/contents/000382401.pdf
9. Youtube