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マイホームを売却する際は、所得税上、さまざまな特例が認められています。
例えば、「売却益3,000万円までは課税されない特例」や、10年超の軽減税率等が代表例です。

一方、マイホームを売却するだけでなく、新たな物件に買い換える場合は、「買い換え特例」という所得税上の特例制度があります。
今回は、マイホーム買換え時の「買い換え特例」につき解説し、他の特例との併用関係や、3,000万円特別控除の特例とどちらが得なのか?につき検証します。

 
 

1. マイホーム買い換え特例とは?要件は?

 

(1) 買い替え特例とは?

 
マイホームを売却し、新たにマイホームを購入した場合、旧マイホーム売却益に課税される所得税を、新居の売却まで繰り延べることができる制度です(租措法36の2)。
 

    【具体例】
    ● 1,000万円で購入したマイホームを、5,000万円で売却
    ● 上記と同時に、新マイホームを7,000万円で買い換え

 

上記の場合、本来は、旧マイホームにかかる4,000万円の売却益(5,000-1,000)が「所得税課税対象」となります。
しかしながら、「買い換え特例」の適用を受ける場合は、旧マイホーム売却益4,000万円に対する課税は、新マイホームを「将来譲渡」するときまで繰り延べられます。
 

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(2) 主な要件

 
当該特例は、要件が細かく定められているため、実務上は適用できるケースが限定されます。主な要件は以下の通りです。
 

旧マイホーム 住まなくなって、3年目の年の12月31日までに譲渡(日本国内にある物件)
●直近2年間に、他の居住用財産の課税特例の適用を受けていない。
売却代金が1億円以下
居住期間及び所有期間が10年以上
●売却相手が、親子や配偶者など「特別な関係者」ではないこと
新マイホーム ●建物の登記上面積50㎡以上、敷地の面積500㎡以下の日本国内の物件(店舗兼用住宅の場合は、居住用部分のみの床面積で判定)
売却年前年から、売却翌年末まで(計3年間)に、買い換え資産を取得(※)
●一定の省エネ基準を満たすもの(令和5年12月末以前建築確認済のもの等は除く)
●中古住宅の場合は、取得日以前25年以内に建築されたもの等

 
(※)マイホーム取得時期に応じた、買い換え資産「居住時期」の要件があります。

新マイホーム取得時期 居住時期
売却年or売却年前年 売却年翌年12月31日までに居住
売却年翌年 取得した年の翌年12月31日までに居住

なお、旧マイホームの売却先は「親族等」でないことが必要とされますが、今回の特例を利用した買い換え資産の購入は、親族等からの取得でも特例の適用が可能です。

 
 

(3) 単なる課税の繰延

 
ただし、この制度は、単なる課税の繰延であるため、以下の点にも注意が必要です。

単なる課税の繰延 当該制度は、課税が繰延されるだけで、税金が減免されるものではありません。将来、買い換えたマイホームを売却した時点で、まとめて税金がかかります。
例えば、上記(1)の例で、買い替えた新マイホームを、将来8,000万円で売却した場合、8,000万円(売却価額)-7,000万円(購入価額)=1,000万円(実際の譲渡益)に課税されるだけでなく、旧マイホーム売却時に繰り延べられていた4,000万円の譲渡益を加えた5,000万円につき、所得税が課税されます。
取得日は引き継がれない 買い換え特例を適用した場合、「旧マイホームの取得日」は引き継がれません。つまり、「買い換えした日=新たな取得日」となります。
この影響は、将来、新マイホームを売却する場合に生じます。
例えば、買い換え特例適用後、10年を経過しない時点で売却する場合は、居住期間10年超の軽減税率等の適用はできません。

 
 

2. 買い換え時の譲渡所得の計算

「旧マイホームの売却価格」と「新マイホームの取得価格」の金額の大小により、繰り延べ可能な「売却益」の金額が異なります。
 
 

(1) 旧マイホーム売却価額 ≦ 新マイホーム取得価額の場合

この場合は、旧マイホーム売却益は全額繰り延べられ、旧マイホーム売却時点での所得税の課税はありません。

 
 

(2) 旧マイホーム売却価額 > 新マイホーム取得価額の場合

この場合は、旧マイホーム売却時点で一部課税され、一部売却益の繰延が可能です。
売却時の譲渡所得(=税金がかかる対象)は、以下の式で計算します。

収入金額(+) 旧マイホーム売却価額 - 新マイホーム買い換え価額
取得費(△)(※) (売却した旧マイホームの取得費 + 譲渡費用)×(① ÷ 旧マイホーム売却価額 )
差引譲渡所得 ①-②

(※)取得費とは、収入から差し引ける金額です。
計算式は難しいですが、当該式は、旧マイホームの取得費のうち、今回買い替え時に「認識する上記①の収入に対応する部分」を算定しています。

以下、具体例を用いて解説します。
 
 

3. 具体例

● 簿価1,000の旧マイホームを、5,000で売却(=売却益4,000)。譲渡費用はゼロとする。
 (1)新マイホームを、7,000で買い換え購入した場合 
(旧マイホーム売却価額 ≦ 新マイホーム取得価額) 
 (2)新マイホームを、3,000で買い換え購入した場合 
(旧マイホーム売却価額 > 新マイホーム取得価額)
● 上記で購入した新マイホームを、将来8,000で売却した場合は?
(この際、新たな買換えはないものとする)
● 簡便的に、減価償却は無視し、土地と建物の区分はしないものとする。

 
 

(1) 7,000で買い換えのケース(旧マイホーム売却価額 ≦ 新マイホーム取得価額)

 

①新マイホーム購入時の課税所得

旧マイホームの売却益4,000は全額繰り延べられ、売却時の税金はゼロ
(4,000は、将来新マイホーム売却時まで繰延OK)

 

②将来、新マイホーム売却時の課税所得

 8,000 - 7,000(新マイホームの取得価額) + 4,000(旧マイホーム売却時の繰延所得)= 5,000 

なお、新マイホーム取得価額7,000と、旧マイホーム売却価額5,000の差額2,000は、新マイホーム購入時の追加資金となりますので、当該部分に税金は課税されません。

 
 

(2) 3,000で買い換えのケース(旧マイホーム売却価額 > 新マイホーム取得価額)

 

①新マイホーム購入時の課税所得

計算式 金額 算定根拠
収入金額(+) 旧マイホーム売却価額 - 買い換え価額 2,000 5,000 – 3,000 = 2,000
取得費(△) (売却した旧マイホームの取得費 + 譲渡費用)×(① ÷ 売却価額 ) 400 1,000 × ( 2,000 ÷ 5,000 ) = 400
差引譲渡所得 ① - ② 1,600 2,000 – 400 = 1,600

旧マイホームの売却益4,000のうち、1,600だけ課税され、差額の2,400(4,000 ― 1,600)は、新マイホーム売却時に課税されます
 

②新マイホーム売却時の課税所得

8,000 - 3,000(新マイホームの取得価額) + 2,400(旧マイホーム売却時の繰延所得) = 7,400

 
 

(3) まとめ

厳密には、土地と建物を区分して計算を行いますが、買い換え特例は、買い換え時に繰り延べた利益につき、将来売却時に税金がかかり、単に課税の繰延の制度である点がわかります。

なお、将来再売却時点でも、買い替え後10年超等でマイホームを買い換えるなど、「買い換え特例の要件」を満たせば、さらに繰延は可能です。

 
 

4. 他の特例との併用は?

「買い替え特例」は、他の譲渡所得特例と併用できないものがほとんどです。マイホームに関連する「他の特例」との併用関係は、以下の通りとなります。
 

マイホーム売却益「3,000万円特別控除の特例」 併用不可
空き家売却時の3,000万特別控除 併用不可(居住の用に供していないため。租措法36条の2みなす規定なし)
所有期間10年超の売却益軽減税率の特例 併用不可
住宅ローン控除 原則、併用不可(一定の年数)

特に、住宅ローン控除との併用は、原則、併用できない点に注意が必要です(入居年前々年~入居年翌年から3年目まで(計6年間)は適用不可)。
当該規定は、上記の6年間以外は住宅ローン控除ができるという規定ではありません
当該期間内に「買い替え特例」を適用した場合は、住宅ローン控除自体が適用できません。詳しくは、No188で解説していますので、ご参照ください。

 

 

5. マイホーム売却益3,000万円特別控除と買い替え特例はどちらが得なのか?

旧マイホームを売却する際「売却益」が生じる場合、「マイホーム売却益の3,000万円特別控除」と、今回の「買い替え特例」どちらが得なのか?迷われると思われます。
 
 

(1) 課税所得が3,000万円以下の場合

「3,000万円特別控除」は、税金が免税される特例となりますので、譲渡所得(利益)が3,000万円以下の場合は、「3,000万の特別控除の特例」の方が税金が発生しない点、お得と言えます。
なお、翌年の国民健康保険料は、3,000万円と特別控除を差し引いた額で算定されますので、国民健康保険料が上がることもありません。
 
 

(2) 課税所得が3,000万円超の場合

一方、譲渡所得が3,000万超の場合は、買い換え特例を適用する方がお得なケースもあります。
例えば、買い替えるマイホームは10年以上居住保有する予定で、当面は売却予定がない場合は、買い替え特例により、実質的に課税されないケースもあります。
また、「買い換え特例」を適用した場合は、譲渡所得を繰り延べますので、「国民健康保険料等」にも影響はありません

 
 

(3) 注意事項

上記のとおり、買い換え特例は、あくまで課税を繰延するだけですので、将来買い換え資産を売却した際に多額の税金が課税される可能性があります。
買い換え特例を適用した場合、旧マイホームの「取得日」は引き継がれません。したがって、例えば、買い替え特例適用後、10年以内に再売却する場合は、10年超の軽減税率等が利用できず、多額の税金が生じる可能性があります。

つまり、「買い換え特例」を適用する場合は、新たに買い換えたマイホームを、10年超所有するという長期的視野を持っておく必要があります。

 

6. 参照URL

(No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3355.htm

(No.3362 居住用財産の買換えの特例を受けて買い換えた資産の取得価額とされる金額の計算)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3362.htm
 

7. Youtube

 
YouTubeで分かる「マイホーム買い換え特例」

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