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自己株式の売却とは、保有する自己株式を、他に売却する手続です。
自己株式を売却することで、新たな資金調達が可能となりますので、通常の新株発行と同様の「法的手続」が必要となります。
 
一方で、自己株式の売却取引は、資本金等の増減金額が異なるため、「会計」と「税務」で資本金等の増減金額が異なるため、申告調整が生じます。

今回は、自己株式売却の影響や法的手続、会計処理・申告書の記載方法等を中心に解説します。

 

1.自己株式売却の影響・法的手続

 

(1) 自己株式売却の効果

自己株式を売却することで、通常の新株発行と同様、資金調達が可能となります。
ただし、新株発行と異なり、保有する自己株式を売却しても、発行済株式総数の変更はありませんので、登記の変更や、登録免許税の負担もありません
(自己株式は、消却しない限り「発行済株式総数」は減少しない。取得・売却による変動はなし)。
 

(2) 自己株式売却の法的手続

自己株式の売却は、「新株発行」となりますので、「新株発行」同様の法的手続となります。
 

①株主割当(会社法202)

原則 株主総会特別決議
例外 公開会社または定款の定めがある場合は、取締役会決議

②第三者割当(会社法199~201条)

原則 株主総会特別決議
例外 公開会社が有利発行しない場合は、取締役会決議

 

2.会計処理と税務処理の違い

(1) 会計処理

会計上は、自己株式売却時に、帳簿価額を減少させ、売却価額との差額につき「自己株式処分差損益」を計上します。自己株式売却取引は、株主との「資本取引」となりますので、「自己株式処分差損益」は、「その他資本剰余金」で計上します(損益計算書には計上しない)。
「その他資本剰余金」がマイナスになる場合は、マイナス分を「その他利益剰余金」に振り替えます。

なお、会計上は、自己株式取得時点では、直接資本の項目から控除せず、「純資産の部」の末尾で「間接控除」されているだけです。会計上は、自己株式を消却しない限り、直接資本から減額することはありません

会計上は、自己株式の取得は資本取引とはなりますが、消却するまでは減資ではなく、有価証券の取得と同様、取得価額があるイメージでよいかと思います。したがって、自己株式売却時も、売却価額全額が資本の増加で認識されるわけではなく、「処分差損益部分」のみが「その他資本剰余金」(資本の増減)として認識されます。

借方 貸方
現金
自己株式処分差損益
(その他資本剰余金)
××
××
自己株式 ××

 

(2) 税務処理

税務上は、原則として「実際に株主との間で資金のやり取りがあったもの」を資本取引(資本金等の額の増減)と考えます。つまり、自己株式取得時点で、既に「全額減資扱い」されていますので、自己株式売却取引はその逆、「増資取引」となり、売却価額全額が「資本金等の額の増減」となります。

「自己株式売却」にかかる「会計処理」と「税務処理」の相違をまとめると、以下となります。

会計処理 税務処理
共通 資本取引
相違点 消却されるまでは減資扱いされないため、売却価額と取得価額との差額「処分差損益」(その他資本剰余金)のみが資本の増減項目。 自己株式取得時点で、全額減資扱いされるため、譲渡価額全額が「資本金等の額」の増加

 

(3) 申告調整

会計処理と税務処理で、「増加する資本の額」が異なるため、申告調整が必要となります。
 

3.具体例

  • 未上場会社。会計上の資本金額は400万円、その他資本剰余金残高はゼロとする。
  • 前期に自己株式を122万円で取得し、「純資産の部」から、122万円(610円×2,000株)間接控除されている。自己株式取得価額122万円のうち、税務上の資本金等の額の減少額は100万円、みなし配当の金額は22万円とする。
  • 当期に、上記自己株式を100万円 (500円×2,000株)で売却した。
  • 簡便的に、みなし配当にかかる源泉所得税の処理は省略する。

 

(1)会計処理

借方 貸方
自己株式取得時 自己株式 1,220,000 現金 1,220,000
自己株式売却時 現金
その他資本剰余金
その他利益剰余金
1,000,000
220,000
220,000
自己株式

その他資本剰余金

1,220,000

220,000
  • 会計上は、自己株式取得時は、取得価額で計上(純資産の部でマイナス)していますので、売却時も、自己株式の取得価額を減少させ、売却差額は、「自己株式処分差損益」(その他資本剰余金)となります。ただし「その他資本剰余金」がマイナスとなりますので、マイナス分は「その他利益剰余金」に振り替えます。

 

(2)税務処理

借方 貸方
自己株式取得時 資本金等の額
利益積立金額
1,000,000
220,000
現金 1,220,000
自己株式売却時 現金 1,000,000 資本金等の額 1,000,000
  • 税務上は、自己株式取得時点で減資扱いとなりますので、売却時は、売却額全額が増資「資本金等の額」の増加となります。

 

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4.申告書の記載例

上記例題をもとに、「売却時」の確定申告書の記載方法をお伝えします。

自己株式の売却取引は、会計処理と税務処理が異なるため、申告調整が必要となります。
会計上は「処分差損益」につき「その他利益剰余金」が減少しているのに対し、税務上は、「売却額全額」が「資本金等の額」の増加となりますので、会計と税務を一致させる別表5の申告調整を行います。
なお、資本項目内での相違のみとなりますので、「会計上の利益」と「税務上の所得」の差異はありません。
 

(1)税務修正仕訳

会計上の仕訳を、税務仕訳に合わせるための修正仕訳は、以下となります。

借方 貸方
自己株式 1,220,000 資本金等の額
その他利益剰余金(自己株式処分差損)
1,000,000
220,000
  • 会計上の「その他利益剰余金」を戻し、税務上の「資本金等の額」を増加させる仕訳となります。

 

(2)別表4

【所得の金額の計算に関する明細書】

「会計上の利益」と「税務上の所得」の差異はありませんので、別表4での加減算はありません
 

(3)別表5

会計上は「その他利益剰余金」を減少させているのに対し、税務上は「売却額全額」が「資本金等の額」となるため、別表5で会計を税務処理に合わせる調整を行います。
上記(1)の「会計 ⇒税務修正仕訳」の内容を、別表5に転記します。
調整前の別表5は「会計処理」が転記されており、当該金額を税務処理に合わせるための調整とイメージしてもらえればと思います。
 

【利益積立金の計算に関する明細書】

区分 期首 当期中の増減 差引
利益準備金
・・・
利益積立金(※1) △220,000 220,000
繰越損益金(※2) 220,000
  • 緑の数値は、会計処理を示していますので申告調整ではありません。既に、自己株式売却の会計処理として「繰越損益金」は、220,000だけ減少しているはずです。
  • 上記の赤字部分が、申告調整箇所となります。自己株式取得時の「みなし配当額」(220,000円)は、期首段階では、マイナスで繰り越されてきています。今回の事例では、売却時点で、会計上も利益剰余金を同額減少させたため(=税務と同じになった)会計と税務処理が一致し、残高はゼロになります。

 

【資本金等の額の明細書】

区分 期首 当期中の増減 差引
資本金 4,000,000 4,000,000
資本準備金
自己株式 △1,000,000 1,000,000
差引合計額 3,000,000 4,000,000
  • 上記の赤字部分が、申告調整箇所となります。自己株式取得時の「資本金等の額」は、期首段階では、マイナスで繰り越されてきていますが、自己株式を売却することにより、増資扱いとなり0になります。
  • 「資本金等の額の明細書の差引合計額」は、自己株式売却により、期首から1,000,000増加します。

なお、申告書の記載方法は自由ですので、他のやり方でも問題ありません。どの記載方法であっても、利益積立金額、資本金等の額の各合計残高は上記と一致します。
 

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