No93.【自己株式売却】会計処理 ・税務処理・申告書別表の記載例・手続や決議は?
自己株式の売却とは、保有する自己株式を、他に売却する手続です。
自己株式を売却することで、新たな資金調達が可能となりますので、通常の新株発行と同様の「法的手続」が必要となります。
一方で、自己株式の売却取引は、資本金等の増減金額が異なるため、「会計」と「税務」で資本金等の増減金額が異なるため、申告調整が生じます。
今回は、自己株式売却の影響や法的手続、会計処理・申告書の記載方法等を中心に解説します。
1.自己株式売却の影響・法的手続
(1) 自己株式売却の効果
自己株式を売却することで、通常の新株発行と同様、資金調達が可能となります。
ただし、新株発行と異なり、保有する自己株式を売却しても、発行済株式総数の変更はありませんので、登記の変更や、登録免許税の負担もありません。
(自己株式は、消却しない限り「発行済株式総数」は減少しない。取得・売却による変動はなし)。
(2) 自己株式売却の法的手続
自己株式の売却は、「新株発行」となりますので、「新株発行」同様の法的手続となります。
①株主割当(会社法202)
原則 | 株主総会特別決議 |
---|---|
例外 | 公開会社または定款の定めがある場合は、取締役会決議 |
②第三者割当(会社法199~201条)
原則 | 株主総会特別決議 |
---|---|
例外 | 公開会社が有利発行しない場合は、取締役会決議 |
2.会計処理と税務処理の違い
(1) 会計処理
会計上は、自己株式売却時に、帳簿価額を減少させ、売却価額との差額につき「自己株式処分差損益」を計上します。自己株式売却取引は、株主との「資本取引」となりますので、「自己株式処分差損益」は、「その他資本剰余金」で計上します(損益計算書には計上しない)。
「その他資本剰余金」がマイナスになる場合は、マイナス分を「その他利益剰余金」に振り替えます。
なお、会計上は、自己株式取得時点では、直接資本の項目から控除せず、「純資産の部」の末尾で「間接控除」されているだけです。会計上は、自己株式を消却しない限り、直接資本から減額することはありません。
会計上は、自己株式の取得は資本取引とはなりますが、消却するまでは減資ではなく、有価証券の取得と同様、取得価額があるイメージでよいかと思います。したがって、自己株式売却時も、売却価額全額が資本の増加で認識されるわけではなく、「処分差損益部分」のみが「その他資本剰余金」(資本の増減)として認識されます。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 自己株式処分差損益 (その他資本剰余金) |
×× ×× |
自己株式 | ×× |
(2) 税務処理
税務上は、原則として「実際に株主との間で資金のやり取りがあったもの」を資本取引(資本金等の額の増減)と考えます。つまり、自己株式取得時点で、既に「全額減資扱い」されていますので、自己株式売却取引はその逆、「増資取引」となり、売却価額全額が「資本金等の額の増減」となります。
「自己株式売却」にかかる「会計処理」と「税務処理」の相違をまとめると、以下となります。
会計処理 | 税務処理 | |
---|---|---|
共通 | 資本取引 | |
相違点 | 消却されるまでは減資扱いされないため、売却価額と取得価額との差額「処分差損益」(その他資本剰余金)のみが資本の増減項目。 | 自己株式取得時点で、全額減資扱いされるため、譲渡価額全額が「資本金等の額」の増加。 |
(3) 申告調整
会計処理と税務処理で、「増加する資本の額」が異なるため、申告調整が必要となります。
3.具体例
- 未上場会社。会計上の資本金額は400万円、その他資本剰余金残高はゼロとする。
- 前期に自己株式を122万円で取得し、「純資産の部」から、122万円(610円×2,000株)間接控除されている。自己株式取得価額122万円のうち、税務上の資本金等の額の減少額は100万円、みなし配当の金額は22万円とする。
- 当期に、上記自己株式を100万円 (500円×2,000株)で売却した。
- 簡便的に、みなし配当にかかる源泉所得税の処理は省略する。
(1)会計処理
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
自己株式取得時 | 自己株式 | 1,220,000 | 現金 | 1,220,000 |
自己株式売却時 | 現金 その他資本剰余金 その他利益剰余金 |
1,000,000 220,000 220,000 |
自己株式 – その他資本剰余金 | 1,220,000 – 220,000 |
- 会計上は、自己株式取得時は、取得価額で計上(純資産の部でマイナス)していますので、売却時も、自己株式の取得価額を減少させ、売却差額は、「自己株式処分差損益」(その他資本剰余金)となります。ただし「その他資本剰余金」がマイナスとなりますので、マイナス分は「その他利益剰余金」に振り替えます。
(2)税務処理
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
自己株式取得時 | 資本金等の額 利益積立金額 |
1,000,000 220,000 |
現金 | 1,220,000 |
自己株式売却時 | 現金 | 1,000,000 | 資本金等の額 | 1,000,000 |
- 税務上は、自己株式取得時点で減資扱いとなりますので、売却時は、売却額全額が増資「資本金等の額」の増加となります。
4.申告書の記載例
上記例題をもとに、「売却時」の確定申告書の記載方法をお伝えします。
自己株式の売却取引は、会計処理と税務処理が異なるため、申告調整が必要となります。
会計上は「処分差損益」につき「その他利益剰余金」が減少しているのに対し、税務上は、「売却額全額」が「資本金等の額」の増加となりますので、会計と税務を一致させる別表5の申告調整を行います。
なお、資本項目内での相違のみとなりますので、「会計上の利益」と「税務上の所得」の差異はありません。
(1)税務修正仕訳
会計上の仕訳を、税務仕訳に合わせるための修正仕訳は、以下となります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
自己株式 | 1,220,000 | 資本金等の額 その他利益剰余金(自己株式処分差損) |
1,000,000 220,000 |
- 会計上の「その他利益剰余金」を戻し、税務上の「資本金等の額」を増加させる仕訳となります。
(2)別表4
【所得の金額の計算に関する明細書】
「会計上の利益」と「税務上の所得」の差異はありませんので、別表4での加減算はありません。
(3)別表5
会計上は「その他利益剰余金」を減少させているのに対し、税務上は「売却額全額」が「資本金等の額」となるため、別表5で会計を税務処理に合わせる調整を行います。
上記(1)の「会計 ⇒税務修正仕訳」の内容を、別表5に転記します。
調整前の別表5は「会計処理」が転記されており、当該金額を税務処理に合わせるための調整とイメージしてもらえればと思います。
【利益積立金の計算に関する明細書】
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
利益準備金 | ||||
・・・ | ||||
利益積立金(※1) | △220,000 | 220,000 | ||
繰越損益金(※2) | 220,000 |
- 緑の数値は、会計処理を示していますので申告調整ではありません。既に、自己株式売却の会計処理として「繰越損益金」は、220,000だけ減少しているはずです。
- 上記の赤字部分が、申告調整箇所となります。自己株式取得時の「みなし配当額」(220,000円)は、期首段階では、マイナスで繰り越されてきています。今回の事例では、売却時点で、会計上も利益剰余金を同額減少させたため(=税務と同じになった)会計と税務処理が一致し、残高はゼロになります。
【資本金等の額の明細書】
区分 | 期首 | 当期中の増減 | 差引 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
資本金 | 4,000,000 | 4,000,000 | ||
資本準備金 | ||||
自己株式 | △1,000,000 | 1,000,000 | ||
差引合計額 | 3,000,000 | 4,000,000 |
- 上記の赤字部分が、申告調整箇所となります。自己株式取得時の「資本金等の額」は、期首段階では、マイナスで繰り越されてきていますが、自己株式を売却することにより、増資扱いとなり0になります。
- 「資本金等の額の明細書の差引合計額」は、自己株式売却により、期首から1,000,000増加します。
なお、申告書の記載方法は自由ですので、他のやり方でも問題ありません。どの記載方法であっても、利益積立金額、資本金等の額の各合計残高は上記と一致します。
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