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譲渡所得とは、土地や建物、株式、車など、「資産を譲渡」することによって生じる所得(利益)のことです(所得税法33条1項)。
所得税法では、所得の性格によって「10種類の所得」に区分され、種類ごとに所得税の計算方法が決められています。
例えば、事業に関連する所得は「事業所得」、不動産賃貸所得は「不動産所得」、資産の譲渡に関連する所得は「譲渡所得」となります。

今回は、資産の譲渡に関連する「譲渡所得」の2種類の課税方法(分離課税・総合課税)をお伝えします。
また、そのうち、車やゴルフ会員権等を譲渡した場合の「総合課税の対象となる譲渡所得」につき解説します。
 

1.譲渡所得の対象資産

(1) 譲渡所得の対象となる資産・ならない資産の代表例

対象となる資産 対象とならない資産
土地、借地権、建物、株式等、車、特定の公社債、金地金、宝石、書画、骨とう、船舶、機械器具、漁業権、取引慣行のある借家権、ゴルフ会員権、特許権、著作権、鉱業権、土石(砂)等 ●事業用の棚卸資産・金銭債権等の譲渡⇒「事業所得」
(事業所得以外、例えば「不動産所得者」の場合は、「事業所得」ではなく「雑所得」)
10万未満の少額減価償却資産、20万未満の一括償却資産の譲渡 ⇒「事業所得 or 雑所得」
●山林などの譲渡 ⇒「山林所得」
●生活用動産 の譲渡(家具、じゅう器、通勤用自動車、衣服など) ⇒ 非課税

事業をされている場合、事業利用の車や備品を売却するケースもあると思います。こういった「事業に関連する固定資産」を売却した場合は、「事業所得」ではなく「譲渡所得」となりますので、注意が必要です。事業所得の会計ソフトでは、売却損益を認識せず、「事業主勘定」で計上します。

(※)生活用動産とは、通常生活に必要な動産です。「生活用動産」の譲渡については、例外的に課税されません。
(貴金属や宝石、書画、骨とうなどで、1個又は1組の価額が30万円を超えるものは課税されます)
詳しくは、こちらをご参照ください。

 

(2) 売買に限られない

税法上の「譲渡」とは、有償無償を問わず、資産を移転させる一切の行為をさします。
通常の売買のほか、交換、競売、代物弁済、現物による財産分与、収用、法人に対する現物出資、限定承認による相続なども「譲渡」に含まれます。
ただし、個人間の無償の贈与は、所得税ではなく「贈与税」が課税されます。
 

(3) 譲渡価額は?

譲渡所得計算上の「譲渡価額」とは、原則として、「実際の売買価額」をさします。
ただし、個人が法人に対して資産を無償ないし時価の1/2未満の価額により譲渡した場合は、実際売買価額ではなく、時価で譲渡があったものとみなされます(みなし譲渡所得課税、所法59条Ⅰ)。「時価」については、No70をご参照ください。
 

2.譲渡所得の課税方法

「譲渡所得税」の計算方法は、大きく、「分離課税」「総合課税」の2つに区分され、それぞれで計算方法が異なります。

譲渡資産の種類によって、「分離課税」「総合課税」のいずれかに区分されます。
イメージは、土地・建物・株式は分離課税、それ以外、例えば車、ゴルフ会員権等の譲渡は総合課税となります(借家権の譲渡は総合課税)。
具体的な区分は、以下となります。
 

区分 内容 対象資産
分離課税 事業所得や給与所得等、「他の所得金額」とは区別して、特別の税率で計算する方法 土地建物(借地権含む)、株式、上場・店頭カバーワラント(※)
総合課税 譲渡所得の金額を、「事業所得」や「給与所得」など他の所得金額と合計して「所得税法の累進税率」によって税額を計算する方法 上記以外(車、骨とう品、ゴルフ会員権等)

なお、分離課税、総合課税のどちらに該当するかに関わらず、譲渡所得の金額は「国民健康保険の金額に影響」がある点にも注意が必要です
(株式特定口座 源泉徴収ありの場合を除く)。

(※)株式の譲渡でも、「ゴルフ会員権の譲渡に類似するもの」は、総合課税となる場合があります。
 

3.総合課税の譲渡所得の計算方法

上記譲渡所得(分離課税・総合課税)のうち、今回は、後者「総合課税の譲渡所得」の計算方法をお伝えしていきます
(土地や建物にかかる「分離課税」の譲渡所得計算方法については、No122をご参照ください)。
 

(1) 短期譲渡所得と長期譲渡所得

「総合課税の譲渡所得」は、所有期間が5年超か否か?で、「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」に区分されます。
「短期譲渡所得」は全額が課税所得となり、「長期譲渡所得」の場合は、その1/2の金額が課税対象となります。
 
総合課税の対象となる譲渡所得金額 = 短期譲渡所得 + 長期譲渡所得 × 1/2 
 

種類 内容 課税対象
短期譲渡所得 所有期間が「5年内」の資産の譲渡 全額
長期譲渡所得 所有期間が「5年超」の資産の譲渡 1/2の金額

(※) 「所有期間5年超」の判断は、売却した年の1月1日時点で判断します。
(なお、自己の研究・著作による特許権・著作権等は、「常に長期譲渡所得」となる例外があります)。
 

(2) 「譲渡所得」の金額算定方法

「短期譲渡所得」、「長期譲渡所得」それぞれ区分して計算します。また、短期長期合わせて、最高50万円の特別控除額も認められています。
 

短期譲渡所得 短期譲渡収入 -(取得費 + 売却費用)- 特別控除額(最高50万円)
長期譲渡所得 長期譲渡収入 -(取得費 + 売却費用)- 特別控除額(短期で未利用の残額)
総合課税の対象となる譲渡所得 ① + ② ×  1/2

● 特別控除額は、短期譲渡所得と長期譲渡所得の合計額につき50万円が上限です。両者合計所得が50万円に満たない場合には、その合計額が上限となります。
● 特別控除額は、まず短期譲渡所得から控除し、残りがあれば、長期譲渡所得から控除します。
● 短期と長期でプラスとマイナスの場合は、内部通算で相殺可能です(特別控除50万差引前で内部通算)
● 上記の他、生活に通常必要でない資産(別荘等)に災害等が生じた場合の損失は、譲渡所得の金額の計算上控除できます(特別控除50万差引前で控除)。
 

(3) 累進課税に含めて計算

上記(2)で算定した「譲渡所得金額」は、「総合課税」の対象となります。
他の総合課税の所得(事業所得や給与所得等)と「合算」して「総所得金額」を算定し、累進課税の税率を乗じて税額が計算されます。
 

(4)総合課税の譲渡所得は損益通算の対象

「綜合課税の譲渡所得」が損失になった場合、他の総合課税の所得と、損益通算が可能です(長期譲渡は1/2前の金額)
 

4.総合課税 譲渡所得算定の具体例

 

当年に、以下の売却があった。売却費用は無視する。
● 簿価300万円のゴルフ会員権を、310万円で売却(所有期間5年内、短期譲渡所得)
● 簿価50万円の自動車を、150万円で売却(所有期間5年超、長期譲渡所得)

 

短期譲渡所得(ゴルフ会員権) 310万円 -300万円- 10万円(特別控除額)(※) = 0
長期譲渡所得(車) 150万円 - 50万円- 40万円(特別控除額の残額)(※) = 60万円
総合課税の対象となる譲渡所得 0 + 60万円 ×  1/2 = 30万円

(※)特別控除50万円は、まず短期譲渡所得から控除し、残額がある場合に、長期譲渡所得から控除する。
今回は、短期譲渡所得から10万円を先に控除し、余った金額40万円(50万円-10万円)を、長期譲渡所得から控除します。

 
上記で算定された「総合課税の対象となる譲渡所得」30万円は、他の総合課税の所得、例えば給与所得や不動産所得等と合算され、「累進課税」の税率により所得税が計算されます。
 

5.参照URL

(No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm

(No.3152 譲渡所得の計算のしかた(総合課税))

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3152.htm
 

6.Youtube

 
YouTubeで分かる「総合課税譲渡所得」

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