No116 【iDeCo+(イデコプラス)】会計処理(仕訳・勘定科目)・税務上の取扱い/マイクロ法人のメリット・役員のみの加入は?企業型DCとの違い
個人の年金制度として人気の高いiDeCo(個人型確定拠出年金)ですが、従業員加入のiDeCoに、企業側が上乗せ拠出できる制度があります。
iDeCo+(イデコプラス)という制度です(中小企業主掛金納付制度)。
企業側の福利厚生の制度として、企業型DCという制度がありますが、iDeCo+の方が気軽に導入できるため、中小企業、あるいはマイクロ法人で活用されています。
今回は、iDeCo+(イデコプラス)の概要や要件、会計処理、税務上の取扱いにつき解説します。
目次
1. iDeCoプラスの加入要件
iDeCo+(イデコプラス)は、従業員が掛けているiDeCo(個人型確定拠出年金)に、企業が上乗せして掛金を拠出できる制度です。
2022年5月以降、加入対象者が60歳⇒65歳まで延長されています。加入要件は以下となります。
内容 | |
---|---|
対象事業主 | ● 企業年金(企業型DC・企業型DB及び厚生年金基金)を実施していないこと ● 従業員(第一号厚生年金被保険者)300人以下の事業主。 |
対象従業員 | ● 個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入している従業員(※) ● 厚生年金被保険者、かつ65歳未満の従業員 |
労使合意 | ● 労働組合or労働者の過半数を代表する者との同意(掛金額変更の際も同意必要)。 |
(※)iDeCoに加入していない従業員への加入強制や、事業主掛金のみの拠出は不可。
2. iDeCoプラスのメリット・デメリット
iDeCo+(イデコプラス)のメリット・デメリットは以下の通りです(「iDeCo」自体のメリットデメリットは、こちらご参照ください)。
長所 | 短所 | |
---|---|---|
法人側 | ● 事業主掛金は、福利厚生費として損金算入でき、社会保険料の負担も増えない ● 管理手数料等の負担なく、従業員の福利厚生の実現が可能 ● 企業型DCよりも、簡単に年金(退職金)制度の構築が可能。 |
● 支出(福利厚生費)が増える ● iDeCo+を開始する場合、労使合意・就業規則等の変更が必要。 |
個人側 | ● 事業主掛け金は、給与ではなく福利厚生費となるため、給与課税、社会保険料への影響はない。 ● 事業主掛け金の分は、将来の受取額が増える。 |
● 元々iDeCoに加入していない従業員は利用できないため、従業員間での不公平感が生じる。 |
3. 税務上の取扱い
法人側 | 事業主掛け金 (iDeCo+) | 全額損金に算入可能 |
---|---|---|
個人側 | 加入者掛け金 (iDeCo) | 小規模企業共済等掛金控除 ⇒ 所得控除可能 |
将来の返戻金(iDeCO & iDeCo+) | 退職所得 or 公的年金等控除扱い |
ただし、別の論点ですが、将来、iDeCoの老齢一時金をもらう場合、勤務先等からの退職金の時期によっては、「退職所得控除」が調整される論点がある点、注意が必要です。
4.掛け金上限・会計処理
(1) 掛け金上限
加入者と事業主掛金の合計額は、月額5,000円以上23,000円以下の範囲で、1,000円単位で決定できます。加入者掛金を0円とすることはできませんが、事業主掛金が加入者掛金を上回ることは可能です。
事業主掛け金は、全員一律の金額の他、例えば、勤続期間や職種によって差異を設けることも可能です。
(2) 納付方法・会計処理
iDeCoプラスの場合、加入者側の掛け金も、事業主が取りまとめて納付します。
一般的には、従業員の加入者掛け金は給与天引きで預かり、加入者掛金と事業主掛金を事業主がまとめて納付します。
加入者側の負担金は預り金、法人側の負担金は支払時に「福利厚生費」として全額損金可能です。消費税区分は「不課税取引」です。
5. 会計処理の具体例
● 給与額面25万円、iDeCoプラス以外の給与天引きは無視する。
(1) 毎月の仕訳
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
給与仕訳 | 給与 | 250,000 | 未払費用(給与) 預り金(iDeCo) |
237,000 13,000 |
掛け金拠出時 | 預り金(iDeCo) 福利厚生費 |
13,000 10,000 |
現金 | 23,000 |
中小企業の場合、貸方「従業員預り金」は、社会保険等の会計処理と同様、簡便的に、「福利厚生費」のマイナスでもよいかと思います。
(2) 年間の節税効果
個人側(所得控除) | 小規模企業共済掛金控除 156,000円(13,000円×12か月) |
---|---|
法人側(損金) | 福利厚生費(経費) 120,000円/人(10,000円×12か月) |
法人側は、従業員の人数分だけ上記の損金効果が生じますので、法人全体で考えた場合の損金インパクトは、意外と大きいと思われます。
6. マイクロ法人の場合のメリットは?
マイクロ法人(社長一人のみ=株主)でも、iDeCo+の導入は可能です。
マイクロ法人の場合、iDeCo+に加入しても、実質個人負担⇒法人負担に変わるだけで、あまりメリットがないように思う方もいるかもしれません。
しかし、例えば、iDeCo+導入により、実質手取りを変えることなく、給与額面を減少させ、所得税、社会保険料を減少させることも可能です。
● マイクロ法人社長のAさん。会社からの給与額面は毎月25万円。個人側で、iDeCoを毎月2万円払っている。
● 上記個人負担のiDeCo2万円のうち、1万円をiDeCoプラスに変更し(会社負担)、同時に給与額面を24万円に引き下げ。
● 簡便的に、給与額面からの天引きはiDeCoプラスのみとし、その他の天引きは無視します。
給与額面 | iDeCoプラス天引き | 給与手取り | iDeCo個人支出 | 実質手残り | |
---|---|---|---|---|---|
iDeCoプラス導入前 | 25万円 | 0 | 25万円 | 2万円 | 23万円 |
iDeCoプラス導入後 | 24万円(額面引き下げ) | 1万円 | 23万円 | (※)0 | 23万円 |
(※)イデコプラスに変更すると、個人負担分もまとめて法人が支払うため、個人からの支出はゼロになります。
上記のように、従来個人負担だったiDeCoを、iDeCoプラス導入により、法人負担に変えた場合、その分だけ会社から受け取る給与額面金額を引き下げても、実質的な手残りの金額は変わりません。逆に言うと、実質手残りを変えることなく、給与額面を引き下げることができる、ということになります。
なお、給与額面から天引きされる金額は、従業員負担額1万円となりますが、会社側は、会社負担額1万円を合わせて拠出するため、法人の損金は給与額面24万円+福利厚生費1万円=25万円となり、額面減少前と損金額は同額となります。
つまり、既存のiDeCo個人負担分を法人負担に変更すれば、法人の損金額はそのままで、個人側の額面を減少させ、所得税及び社会保険料の減少につなげることが可能です。
なお、家族経営の会社でも、同様の効果は期待できますが、例えば、他に一般の従業員がいる状況で、iDeCo+に加入できる方を、役員等に限定するようなことはできません(一定の資格ごと、例えば、勤続年数に応じた掛金額の設定等は可能)。
7. 企業型DC(企業型確定給付企業年金)との違い
iDeCo+に似た制度として、企業型DCがあります。どちらも、運用主体は従業員、掛け金を企業が納付する点は共通していますが、以下の点が異なります。
詳しくはNo209をご参照ください。
企業型DC | iDeCo+ | |
---|---|---|
加入者 | 事業主 | 従業員 |
運用管理手数料 | 事業主負担 | 従業員負担 |
加入 | 企業側の定めた加入条件が存在 | 同意のある従業員のみ |
掛金上限 | 月額55,000円 | 月額23,000円 |
拠出金 | 企業側が全額負担 (マッチング拠出除く) |
加入者掛金は個人側負担、事業者掛金は事業主負担 |
その他 | マッチング拠出あり | 逆マッチング拠出の効果あり |
8. 参照URL
iDeCo公式サイト
https://www.ideco-koushiki.jp/owner/ideco_plus.html