No227.【役員報酬】税金が安くなる役員報酬の決定方法
前回の続きになります。
経営者の方なら、一度は「自分の役員報酬をいくらにすればよいか?」を考えたことがあると思います。
役員報酬を高く設定すれば、法人税は安くなる一方、個人所得税と社会保険料は高くなります。
コストが一番安くなる「役員報酬」の額を設定したい!というのは、経営者として当然の検討事項だと思います。
しかし、この論点は、①社会保険と②税金へのインパクトという「2ファクター」を考慮する必要があるため・・なかなか難しい論点になります。
前回、①社会保険への影響についてお伝えしましたので、今回は②税金へのインパクト(「所得税率」と「法人税率」の比較)という観点で、役員報酬の適正価額を探ります。
今回のテーマは、あくまで方向性を示すことが趣旨ですので、その点ご了承ください。
1. 法人税率(2020年10月以降開始する事業年度)
中小企業の「法定実効税率」は、年間所得800万円までは約21%程度です
(年間所得800万円を超える金額は、32%程度)。
2. 個人の給与にかかる税額(所得税)
個人の給与にかかる税額は、以下の計算式で算定されます。
(1) 給与所得控除
給与については、額面金額に応じた「給与所得控除」という「経費」が自動的に認められます。
(給与所得控除の率)令和2年以降
給与の額 | 給与所得控除の額 | |
---|---|---|
超 | 以下 | |
55万円 | 55万円 | |
55万円 | 180万円 | 収入 × 40% – 10万円 |
180万円 | 360万円 | 収入 × 30% + 8万円 |
360万円 | 660万円 | 収入 × 20% + 44万円 |
660万円 | 850万円 | 収入 × 10% + 110万円 |
850万円 | 195万円(上限) |
(2) 所得税率
所得税等の税率は、以下の通りです。
参考に、課税所得に対する税金負担率の目安を「一番右」に記載しています。
(所得+住民税+復特所得税率。事業税は除く)
所得税 | 住民税 | 参考 (所得+住民税率) 実行税率 |
|||
---|---|---|---|---|---|
課税所得 | 税率 | 控除額 (円) |
税率 | ||
超 | 以下 | ||||
0円 | 195万円 | 5% | 0 | 10% | 15.1% |
195万円 | 330万円 | 10% | 97,500 | 10% | 15.1%~17.2% |
330万円 | 695万円 | 20% | 427,500 | 10% | 17.2%~24.1% |
695万円 | 900万円 | 23% | 636,000 | 10% | 24.1%~26.3% |
900万円 | 1,800万円 | 33% | 1,536,000 | 10% | 26.3%~35.0% |
1,800万円 | 4,000万円 | 40% | 2,796,000 | 10% | 35.0%~43.7% |
4,000万円 | 45% | 4,796,000 | 10% | 43.7%~ |
- 事業税(※)は、算定方法が異なるため「上記表」には含まれていない。
(※)個人事業税の計算(事業所得 – 290万)× 5%(業種によって%は異なる)
3. 具体例(1人社長の場合)
オーナー社長1人のみの会社を前提に、役員報酬差引前利益パターンごとに、シミュレーションします。
- 社長個人の所得控除は、100万円あるものとする。
- 法人税は、実効税率21%で計算する(均等割は無視)。
- 簡便的に、住民税率は課税所得 × 10%で算定する。
- 簡便的に、個人事業税は無視する。
(1) 法人利益(役員報酬差引前) 600万円の場合
例えば、法人に利益300万円を残して、個人に300万円の報酬を支払う場合は、
法人税 約63万円 + 個人所得税 約16万円 = 合計税額 約79万円になります。
配分パターンごとの税額をまとめると、以下の表のとおりとなります(以下の表、すべて同様です)。
法人の利益/ 社長の報酬 |
法人300万 社長300万 |
法人200万 社長400万 |
法人100万 社長500万 |
法人利益0円 社長600万 |
---|---|---|---|---|
法人税 | 63万円 | 42万円 | 21万円 | 0円 |
所得税 | 16万円 | 27万円 | 42万円 | 58万円 |
合 計 | 79万円 | 69万円 | 63万円 | 58万円 |
- 法人利益をゼロにし、利益部分は全額報酬で支払う方が税金総額は安くなる。
(2) 法人利益(役員報酬差引前) 700万円の場合
法人の利益/ 社長の報酬 |
法人300万 社長400万 |
法人200万 社長500万 |
法人100万 社長600万 |
法人利益0円 社長700万 |
---|---|---|---|---|
法人税 | 63万円 | 42万円 | 21万円 | 0円 |
所得税 | 27万円 | 42万円 | 58万円 | 84万円 |
合 計 | 90万円 | 84万円 | 79万円 | 84万円 |
- 法人利益(役員報酬差引前)が、700万円程度を超えてくると、法人に若干利益を残した方が、税金総額は安くなる。
(3) 法人利益(役員報酬差引前) 800万円の場合
法人の利益/ 社長の報酬 |
法人300万 社長500万 |
法人200万 社長600万 |
法人100万 社長700万 |
法人利益0円 社長800万 |
---|---|---|---|---|
法人税 | 63万円 | 42万円 | 21万円 | 0円 |
所得税 | 42万円 | 58万円 | 84万円 | 111万円 |
合 計 | 105万円 | 100万円 | 105万円 | 111万円 |
- 同上
(4) 法人利益(役員報酬差引前) 1,200万円の場合
法人の利益/ 社長の報酬 |
法人300万 社長900万 |
法人200万 社長1000万 |
法人100万 社長1100万 |
法人利益0円 社長1200万 |
---|---|---|---|---|
法人税 | 63万円 | 42万円 | 21万円 | 0円 |
所得税 | 139万円 | 170万円 | 203万円 | 236万円 |
合 計 | 202万円 | 212万円 | 224万円 | 236万円 |
- 法人に300万以上利益残した方が、税金総額は安くなる。
(5) 結論
以下の結論となりました。
- 1人会社の場合、法人利益(役員報酬差引前)600万円程度までは、全額役員報酬で支払う方が、税金総額は安く収まる。
- 1人会社の場合、法人利益(役員報酬差引前)が600万円程度を超えてくると、少し法人に利益残した方が、税金総額は安くなる。
- 所得控除の額は各人異なるため、各人の状況で利益分岐点は変動する。
4. 配偶者に給料を支給する場合
所得税は「累進課税」のため、所得が多くなれば「税率」は高くなります。
したがって、例えば、社長1人に600万円支払うよりも、社長300万円、配偶者300万円など「分散」して支払う方が「家族全体の所得税」は安くなります(所得分散効果)。
上記の例をもとに、法人利益(役員報酬差引前)を、社長と配偶者に折半で支払った場合を検討します。
結論的には、1人社長だけに役員報酬を支払う場合と比べて①税金総額は安くなり、②全額報酬で支払って税金総額が安く収まる「法人利益」の上限は上昇します。
- 1人社長以外に、奥様が役員として勤務している。
- 所得控除は社長100万円、奥様50万円あるものとする。
- 法人税は、実効税率21%で計算する(均等割は無視)。
- 簡便的に、住民税率は課税所得 × 10%で算定する。
- 簡便的に、個人事業税は無視する。
(1) 法人利益(役員報酬差引前) 600万円の場合
法人の利益/ 社長の報酬 奥様の給与 |
法人300万 社長150万 奥様150万 |
法人200万 社長200万 奥様200万 |
法人100万 社長250万 奥様250万 |
法人利益0円 社長300万 奥様300万 |
---|---|---|---|---|
法人税 | 63万円 | 42万円 | 21万円 | 0円 |
所得税(社長) | 0円 | 5万円 | 11万円 | 16万円 |
所得税(奥様) | 8万円 | 13万円 | 18万円 | 23万円 |
合 計 | 71万円 | 60万円 | 50万円 | 39万円 |
- 法人利益をゼロにし、利益部分は全額報酬で支払う方が税金総額は安くなる。
- 1人社長に全額払する場合と比べて、配偶者と折半する方が税金総額は安くなる。
(2) 法人利益(役員報酬差引前) 700万円の場合
法人の利益/ 社長の報酬 奥様の給与 |
法人300万 社長200万 奥様200万 |
法人200万 社長250万 奥様250万 |
法人100万 社長300万 奥様300万 |
法人利益0円 社長350万 奥様350万 |
---|---|---|---|---|
法人税 | 63万円 | 42万円 | 21万円 | 0円 |
所得税(社長) | 5万円 | 11万円 | 16万円 | 21万円 |
所得税(奥様) | 13万円 | 18万円 | 23万円 | 29万円 |
合 計 | 81万円 | 71万円 | 60万円 | 50万円 |
- 同上
(3) 法人利益(役員報酬差引前) 800万円の場合
法人の利益/ 社長の報酬 奥様の給与 |
法人300万 社長250万 奥様250万 |
法人200万 社長300万 奥様300万 |
法人100万 社長350万 奥様350万 |
法人利益0円 社長400万 奥様400万 |
---|---|---|---|---|
法人税 | 63万円 | 42万円 | 21万円 | 0円 |
所得税(社長) | 11万円 | 16万円 | 21万円 | 27万円 |
所得税(奥様) | 18万円 | 23万円 | 29万円 | 36万円 |
合 計 | 92万円 | 81万円 | 71万円 | 63万円 |
- 同上
(4) 法人利益(役員報酬差引前) 1,200万円の場合
法人の利益/ 社長の報酬 奥様の給与 |
法人300万 社長450万 奥様450万 |
法人200万 社長500万 奥様500万 |
法人100万 社長550万 奥様550万 |
法人利益0円 社長600万 奥様600万 |
---|---|---|---|---|
法人税 | 63万円 | 42万円 | 21万円 | 0円 |
所得税(社長) | 34万円 | 42万円 | 50万円 | 59万円 |
所得税(奥様) | 44万円 | 52万円 | 62万円 | 74万円 |
合 計 | 141万円 | 136万円 | 133万円 | 133万円 |
- 法人利益(役員報酬差引前)が1,200万円程度を超えてくると、法人に若干利益を残した方が、税金総額は安くなる。
- 1人社長に全額払する場合と比べて、配偶者と折半する方が税金総額は安くなる。
(5) 結論
配偶者に報酬を支払う場合は、1人社長に全額報酬を支払う場合と比較して、以下の結論が得られました。
- 全額報酬で支払っても税金総額が安く収まる法人利益(役員報酬差引前)の上限は上昇する(1人社長のみの場合600万円 ⇒ 配偶者折半の場合1,200万円)。
- 所得分散効果により、家族全体の所得税総額は安くなる。
5. 注意点
あくまで今回は、役員報酬が与える「税金」へのインパクトの論点に絞っています。
前回お伝えした通り、役員報酬の額は、社会保険にも影響します。
前回、社会保険の費用対効果の観点では、「役員報酬金額は少ないほうが効果的」という結論になりましたので・・それとの比較になります。
難しいですね・・
結論的には、「高すぎず、安すぎず、生活できるレベルでそこまで高くない役員報酬の設定で、社会保険と税金を抑える」というくらいが無難ではないでしょうか。
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